概要
除水不良とは、カテーテルに異常がある場合と、腹膜の透過性亢進に基づく場合とがあります。
カテーテル異常による排液障害の鑑別診断として、①カテーテルの位置不良、②サイドホールへの大網などの絡みつき、③腹壁でのカテーテル縫合の締め過ぎ、④カテーテル(または接続チューブ)のキンキング、などの有無を確認し、これらが疑われる場合は速やかに対処します。
日本透析医学会「腹膜透析ガイドライン2019」第二章より引用
カテーテル異常による排液障害への対処法は「カテーテル挿入術:カテーテルトラブルへの対処」をご参照ください。
上記のカテーテル関連の排液障害を除外した後の除水不良とは、適正な透析を行っているにもかかわらず、必要な水分除去が確保できない状態を示しており、除水不全の目安としては「2.5%の透析液2Lを1日4回使用しても除水量が500mL未満」という基準が掲げられています(1)。
このような除水不良は、残存腎機能が保たれている時期には尿量の増加によって代償されPD継続の障害とならないことがあるものの、透析期間の延長とともに進行する腹膜劣化・腹膜透過性亢進に伴って除水不良が出現することが多く、長期的にはPD離脱の最も大きな原因を占める重要な合併症です。
診断
- 特に残存腎機能が低下・廃絶した時の除水量低下には、はじめに排液障害を除外した後、透析スケジュールの確認とPETを行い、以下の3点に留意しながら除水不良の原因に対する診断を進めましょう。
- 腹膜透過性が亢進して除水が不十分な場合
- 腹膜透過性は亢進していないが、除水が不十分な場合
- 原因不明の除水不良
対処法
- 腹膜透過性が亢進して除水が不十分な場合
- 塩分摂取の制限、利尿剤の投与、透析液の貯留時間の短縮やAPDの活用、高濃度ブドウ糖透析液やイコデキストリン透析液の処方、PD+HD併用療法の導入、HDへの移行などの検討が必要となります。
- 体重増加や浮腫の増強、血圧の上昇といった体液管理の悪化がみられた場合、塩分摂取の増加やそれに付随する水分摂取過剰によるinの問題と、限外濾過量や尿量の減少によるoutの問題の両面から検討することが大切です。
- 高濃度透析液を使用しているにもかかわらず除水のピークを越える貯留時間になった場合や、短時間貯留にしても腹膜透過能が高度に亢進している場合では、十分な限外濾過量が得られにくくなることがあります。
- 腹膜透過性には個体差があるためPD導入当初より、除水不良を呈する場合もあります。
- 腹膜透過能は亢進していないが、除水が不十分な場合
- 溶質除去能の低下が生じている場合は、腹膜全体を有効に利用できていない可能性があり、腹膜の癒着や被囊性腹膜硬化症(EPS)」に伴う透析液の分布障害や有効腹膜面積低下に関する検討が必要となります。
- 溶質除去能の低下が生じている場合は、腹膜全体を有効に利用できていない可能性があり、腹膜の癒着や被囊性腹膜硬化症(EPS)」に伴う透析液の分布障害や有効腹膜面積低下に関する検討が必要となります。
- 原因不明の除水不良
- 腹膜透過能とは直接関連せずに除水量の減少を引き起こす因子として、リンパ管からの水分吸収増加があります。この経リンパ水分吸収量の測定には、 シミュレーションソフトによる解析やシンチグラムを用いた計測法がありますが、精度や簡便性といった面で問題があり、日常臨床において正確な評価をするのは難しいのが現状です。
- リンパ管からの水分吸収増加による除水量の減少が疑われる場合、トラネキサム酸の経口内服により除水量の増加が得られる例があります(2)。この際、注意すべき合併症として、排液中に析出するフィブリンの増加があります。このため、トラネキサム酸投与時は排液中のフィブリン量のチェックやそれに伴うカテーテル閉塞、排液障害の出現に十分注意してフォローすることが大切です。
- 1. 硬化性被囊性腹膜炎(sclerosing encapsulating peritonitis, SEP)診断・治療指針(案)―1996 年における改訂―.透析会誌30:1013-1022,1997
- 2. 栗山哲、他. 除水不全を呈するCAPD患者におけるトラネキサム酸(tranexamic acid)の除水量増加作用. 透析会誌30:1369-1373,1997
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