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腹膜透析(PD)

末期腎不全における療法選択

事例紹介Vol.1

腎不全治療の療法選択支援における Shared Decision Making(SDM)の実践

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Vol.1日本赤十字社和歌山医療センター

  • 杉谷盛太先生

    腎臓内科医師
    杉谷盛太先生

  • 今城博枝さん

    血液浄化センター
    看護師長(透析看護認定看護師)
    今城博枝さん

末期腎不全の治療として、腹膜透析(PD)、血液透析(HD)、在宅血液透析(HHD)、腎移植のすべての選択肢を提供して いる日本赤十字社和歌山医療センター。腎代替療法の療法選択にあたっては、2012年に看護師が担当する「療法選択外 来」を立ち上げ、プロセスや内容の見直しを継続的に行いながら、SDMに基づく患者の意思決定支援を実践しています。
<DATA>
年間透析導入数:約110例(緊急導入率 約50%)
維持外来血液透析患者 約75名・腹膜透析患者 約40名・在宅血液透析患者 10名

 

「療法選択外来」

 保存期患者の診療は、腎臓内科の外来にて6名の医師により行われ、CKDステージG4になると、医師から腎代替療法についての説明が行われるとともに、「療法選択外来」の受診を勧めています。「療法選択外来」は血液浄化センターの看護師4名が担当。各治療法の詳細な説明を行い、患者の生活背景や思いを聴き、治療法の決定を支援。患者の受け入れの状況や病状によって内容や回数は異なりますが、複数回にわたるプロセスとなることが多く、1回約1時間の面談は、年間120回にものぼっています。

 

●実践ポイント(1):初回面談までの準備

 医師から「療法選択外来」への予約が入ると、血液浄化センターの「療法選択外来」担当看護師は、まず対象患者の診療歴を電子カルテで確認。これまでの説明への反応などを直接医師に確認する。血液浄化センターの看護師は「療法選択外来」で患者と初対面となることがほとんどであり、初回面談での印象はその先の意思決定支援に大きく影響するため、初回面談までの準備は非常に大切だと言う。
 「療法選択外来」当日は、医師から療法選択外来を勧められたことをどのように理解しているか、受け止めているかを患者と確認しながら話を進めていく。

 

●実践ポイント(2):治療法の理解を深める~ツールや見学/体験を活用

 治療法の理解を深めてもらうためのツールとしては、5学会作成の「腎不全 治療選択とその実際」のDVDと冊子を使用。冊子は事前に渡し、DVDは当日視聴してもらう。
また、より具体的な治療イメージをもってもらうために、血液透析室の見学や、サンプルを使用したPDのバッグ交換体験を行っている。特にPDについては患者が事前に持って「療法選択外来」いる情報が少ないため、体験を交えた情報提供等で理解が進むよう工夫している。

 

●実践ポイント(3):患者の生活背景や思いを知り、治療を提案・意思決定へ

 患者の生活背景や価値観の把握には「あなたに合った治療法を選ぶために(腎臓病SDM推進協会発行)」を使用。事前に渡し、当日までに記入してくるよう促している。当日、冊子を見ながら、患者や家族と一緒に病気・治療についての理解、生活状況、大切にしたいことなどを確認していく。
 このプロセスを通じて患者を理解した上で、看護師として患者に合っていると思う治療を提案。患者の希望を踏まえ、共に「この治療でよかった」と思える意思決定を目指している。

 

療法選択までの流れ

 

 また、患者が希望する治療を選択できるよう、必要に応じて、他部門や社会資源の活用のコーディネートも行っている。加えて、療法選択外来で治療法を一度決定しても、導入までの間に気持ちや生活環境の変化が生じた際にはまた相談できることを患者に伝えるようにしている。

 

●実践ポイント(4):医師との情報共有

 「療法選択外来」終了後は、医師に療法選択外来での患者の様子や選択した療法について情報共有を行う。また、決定に至らなかった場合には、次回の療法選択外来受診の調整を依頼。情報共有は、電子カルテへの記載と直接口頭で行われ、電子カルテでは必要事項の記載漏れが無いよう、テンプレートが作成されている。

 

●実践ポイント(5):緊急導入への対応

 高度救命救急センターを有する急性期総合病院である同院には、緊急で腎代替療法が必要となる患者も多く来院する。このような場合、導入までに治療法の選択を検討する猶予はないが、それでも治療の選択肢が提示されないことは避けるべきと、急性期を脱し、維持透析開始の準備を行うタイミングで、「療法選択外来」の受診を勧めている。

 

療法選択支援のためのツール

 

これまでの課題と取り組み

 このように、現在では多くの患者が「療法選択外来」を利用し、以前に比べPDやHHDを選択するといった治療選択の幅も広がっている同院ですが、これまでには様々な課題と向き合ってきました。

 

1)「療法選択外来」の浸透

 研修先施設での見学をきっかけに「療法選択外来」を立ち上げたが、当初は腎臓内科の医師にその存在が浸透しておらず、受診する患者は限られていた。そこで、同外来の立ち上げに携わった杉谷医師が、他の医師へ働きかけた。実際、外来の時間内だけでは十分な説明をすることは困難であるため、「療法選択外来にサポートしてもらいましょう」と、部長をはじめとして、個別に話をし続け、時には透析導入時期が近い患者の外来日にあわせて担当医師に「リマインドメール」を送るなどして、その存在を浸透させていった。同時に、外来待合室に患者向けのポスターを設置。患者や外来看護師への認知向上もはかっていった。現在では、腎臓内科医師6名全員があたりまえのプロセスとして、この療法選択外来を利用している。
 また、「あなたに合った治療法を選ぶために」への患者からの書き込みは面談を進める上で重要な情報となるが、医師が患者に渡し、療法選択外来までに記入してくるよう伝えても、記入してくる患者は全くいなかったと言う。そこで、医師に加え、腎臓内科の看護師からも積極的に患者に声かけをするように変更。すると、多くの患者が記入してくるように変わっていった。
 こうして、腎臓内科外来の医師・スタッフに「療法選択外来」が浸透していった。
 「最初は『草の根運動』でした。しかし、数が増えてくると、自然とそれがあたり前になる。今ではあたり前のこととして浸透しています」(杉谷医師)

 

療法選択外来の案内ポスター

 

2)情報提供からSDMへ

 当初、「情報提供」が中心であった同外来だが、様々な症例を経験する中で、患者の意思決定を支援するには、一方的な情報提供ではなく、患者の背景を理解し提案もできるSDMにしなければならないと、内容やツール、プロセスを変更していった。患者からの情報を得ることで、より踏み込んだ情報提供や支援が可能となっている。
 「当初は説明を聞いて1回の面談だけで終わるケースがほとんどでしたが、今では多くの患者さんが複数回受診しています。これは、単なる情報提供からSDMへと発展していることの表れでしょう。患者さんからは『親身になって話を聴いてくれた』という反応も聞かれています。また、患者さんが誤った知識や古いイメージで治療を選んでしまうことを防ぐことにもつながっていると思います」(杉谷医師)

 

3)担当看護師の不安「自分の説明が患者の人生を左右してしまうのでは・・」

 療法選択外来に関わる看護師は、一人で患者さんやご家族と対峙しているため、「説明は適切だったのか」「この治療を勧めて正しかったのか」「他に支援できることはなかったのか」など不安を感じることがある。そこで、担当看護師4名と師長で定期的にカンファレンスを実施している。それぞれが担当したケースについて意見を出し合うことで、看護師の不安軽減につながると共に、スキルアップにもつながっている。
 「看護師が不安になり責任を回避しようとしすぎると、SDMではなく、ただの療法説明になりがちです。みんなで振り返り検討することで、個々の不安が軽減され、患者さんの背景や気持ちに寄り添い、医療者として最適と考える治療を提案できることを目指したいと考えています」(今城師長)

 

4)看護師の育成

 療法選択外来を始めた当初は、看護師から依頼されて 杉谷医師が追加説明を行う場面もあったと言う。しかし、症例を重ね、経験を積むうちに、看護師の知識も増え、患者の質問に答えられない例は、ほとんど無くなっている。
 また、療法選択外来を受ける患者の増加に対応できるよう、療法選択外来を担当できる看護師の育成を進めている。療法選択を担当するには、まずは、それぞれの治療法についての理解を深めることが不可欠と考え、PDの勉強会をシリーズで実施。その上で、ロールプレイを含むSDMの勉強会を行った。透析室は子育て中の看護師も多いことから、「子連れ勉強会」も行っている。
 「知らない治療法は自信を持って説明することはできません。そこで、少し遠回りにはなりましたが、治療法そのものについての勉強会を先に行いました。そして、次のステージとして療法選択についての知識とスキルを身につけてもらっています。今後はOJTを通じて実践へとつなげていく予定です」(今城師長)

 

 数々の課題に対応しながら、同院の「療法選択外来」は、「療法説明」から「Sheared Decision Making(SDM)」へと発展しました。今後の課題として、療法決定後の患者へのフォローや治療開始までの準備支援をより充実させること、各面談の質の確保、さらなる人材の育成などを挙げ、ますます患者に寄り添った療法選択支援の充実を図っています。

 

療法選択におけるSDM実践への課題と対策

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