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腹膜透析(PD)

末期腎不全における療法選択

事例紹介Vol.4

腎不全治療の療法選択支援における Shared Decision Making(SDM)の実践

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Vol.4勤医協中央病院  (インタビュー 2021年11月実施)

  • 五十嵐謙人先生

    腎臓内科 医師
    五十嵐 謙人先生

  • 袖城久美さん

    血液浄化センター 看護主任
    袖城 久美さん

札幌市東区に位置する北海道勤労者医療協会勤医協中央病院は、札幌市北東部および近隣市町村の医療を担う基幹病院です。腎臓内科では腎代替療法に関するShared Decision Making(SDM)に積極的に取り組んでおり、腹膜透析(PD)患者数は年々増加しています。また、日本腹膜透析医学会から2020~22年度の医師、看護師腹膜透析教育研修医療機関(全国25施設)に認定され、研修会では全国からの参加者を受け入れています。
<DATA>
■ 年間透析導入数:約60例(緊急導入率:約20%)
■ 維持外来血液透析患者:約100人
■ 腹膜透析患者:約50人

 

療法選択外来

 腎不全保存期患者の診療は腎臓内科の外来(週3日)で4人の医師が担当していますが、慢性腎臓病(CKD)のステージG4を目安として「腎代替療法選択外来」に紹介しています。療法選択の支援自体は2017年から実施していましたが、2018年9月に「腎代替療法選択外来」として本格的に始動し、現在は血液浄化センターのPD担当看護師3人が患者との面談に従事しています。腎代替療法の検討を要する外来患者のほぼ全例が療法選択のプロセスを経ており、2020年度には療法選択外来を受診した72例に対し計 115回の面談を行いました。

 

実践ポイント①:医師による療法選択外来の紹介とタイミング

 腎臓内科では外来患者がCKDのステージG4に至った段階で、医師から現在のCKDの病状、透析導入が必要となる可能性、腎代替療法が必要な理由について説明し、治療の選択肢に関する説明を関連5学会発行の冊子を用いて行い、療法選択外来を紹介している。患者の療法選択外来を受診する意思を確認して、医師が予約を取る(図1)。
 同科外来の医師が療法選択外来を紹介する時期については、腎代替療法が必要となるぎりぎりではなく、比較的早期に行うことを基本とし、原疾患が糖尿病の場合は進行が速いケースもあるのでG4早期、慢性糸球体腎炎などの場合はG5に近い段階が多い。また、家族が遠方にいるケースも多く、家族が患者と一緒に来院できるタイミングも考慮するなど、原疾患や患者背景、患者の受容状況などを個々に検討し紹介のタイミングを見極めている。

 

図1 療法選択までの流れ

療法選択までの流れ

 

実践ポイント②:家族の参加がカギを握る

 療法選択外来での説明内容を患者により深く理解してもらうためには、家族の参加がカギとなる。特に高齢患者の場合は家族に対する説明を丁寧に行うように心がけているが、若年患者でも「自分にはまだ早い」と耳を傾けようとしない人もいるので、患者の年齢にかかわらず家族の参加を必須としている。

 

実践ポイント③:担当者によるばらつきを防ぐためにマニュアルを作成

 療法選択外来では説明内容などが担当者によって大きく異なることがないよう、院内で作成したマニュアルに基づいて説明を行っている。このマニュアルでは治療法の説明順も記載しており、現在は腎移植→血液透析(HD)→PDとしている。
 「移植に関心を示された方には、別途冊子を使って説明します。またPDの説明では、患者さんが自己管理の仕方などに興味を持って質問の量が多くなることが少なくないため、説明順を工夫し、HDの説明後、PDに興味がある人にはゆっくり説明をできるように工夫しました。HDとPDの説明順を変更したことで、以前は1.5~2時間かかってい た面談時間が1時間程度で終えられることが多くなりました」(袖城看護師)

 

実践ポイント④:療法選択外来における面談の実際とツールの活用

 療法選択外来での面談は、3人のPD担当看護師が交代で行っている。毎日実施可能な体制を敷いているが、患者の利便性を考慮して腎外来と同日に面談を行う場合が多いため、実際の頻度は週3回程度だという。1例当たりの面談回数は原則2回だが、患者が希望すれば3回以上行うこともある。
 まず、患者は療法選択外来受診前に医師から簡単な説明を受け、療法選択外来1回目の面談では、看護師が腎外来の記録(電子カルテ)から腎代替療法に対する患者の理解度を確認し、理解度に合わせながら話を進める。1回目は、主に日本腎臓学会など関連5学会発行の冊子『腎不全 治療選択とその実際』やDVDを用いて説明し、さらに、治療のイメージを持ってもらうためにHD室の見学や人形を使用しPDの仕組みの説明も行っている(図2)。
 2回目の面談の前には、腎臓病SDM推進協会発行の冊子『腎臓病 あなたに合った治療法を選ぶために』を患者に渡し、生活の様子などを記入し次回面談時に持参するよう促している。2回目の面談ではその冊子を使い、患者や家族にとってどの治療法が最適かを一緒に相談しながら療法選択を支援する。この段階で腎代替療法の選択ができる患者が多いが、選択に至らない場合はさらに面談を重ねていく。同冊子の最終ページは面談の内容を記録できるようになっているため、各面談でそれぞれ話した内容を記載し、患者に持ち帰ってもらう。この記録を腎外来の医師、看護師を含めて共有できるようになることが理想だという。

 

図2 療法選択時に使用するツール

療法選択時に使用するツール

 

これまでに見えてきた課題と取り組み

 以上のように、同院では腎代替療法のSDMに積極的に取り組み、その普及にも大きく寄与してきました。これまでどのような課題をどのように乗り越えてきたのでしょうか。また、今後に残された課題はあるのでしょうか。

 

1)腎代替療法選択外来の浸透と情報共有

 同院の腎代替療法選択外来は、患者に治療の選択肢を提示することは当たり前であり、医療者と患者、家族での十分な話し合いが必要と考える中で、外来枠確保のために「自然発生的」に立ち上がったという。また、腎代替療法が必要となるほぼ全例がこの療法選択外来を利用しており、医師間に温度差は見られない。「毎朝行っている医師のカンファレンスで、以前から、『この患者さんは本当にHDでいいのか、選択肢は提示したか』など、個々の患者さんの療法決定について議論を行っていました。今振り返れば、その議論の積み重ねが医師間の意識の共有につながっていたのだと思います」(五十嵐医師)
 また、SDMや治療選択後の患者管理において極めて重要とされる患者情報の共有は、毎朝の医師間でのカンファレンスに加え、SDMに関わる腎臓内科医と看護師が参加する月2回のカンファレンスで行われている。他院と併診している患者や訪問看護を利用中または利用予定の患者については、基本的に退院前に他院の医師や訪問看護ステーションの担当者と顔合わせをした上で、医療介護領域専門のオンラインコミュニケーションツールを用いて情報共有を図るようにしているという。

 

2)療法選択に興味を示さない患者への対応

 同院では、比較的早期に療法選択外来を紹介していることもあり、1回目の面談で腎代替療法に興味を示さない患者や受診の必要性を認識していない患者に少なからず遭遇する。そのような場合、無理にその場で2回目の面談を設定しなくてもよいと考えるようにしているという。
 「患者さんが、いざ腎代替療法を選択しなければならない段階になったときに、1回目の面談で幾つかの選択肢があるという情報を少しでも印象付けることができていれば、全く面談を行わなかった場合とは療法選択に対する考え方が大きく異なってくると思います」(袖城看護師)

 

3)患者が望む治療を選択できるように体制を整え支援

 SDMを実践し、PDに興味を持つ患者が増加する中、PDを希望した患者が実際に導入できるように、同院ではPD診療体制を強化している。まず、PDに対応する診療体制をつくるには多職種の協力が欠かせないと考えた五十嵐医師は、多職種でPDに関する知識を共有する機会となる「腹膜透析同好会」を立ち上げた。「同好会」という非公式な会にすることで、煩雑になりがちな手続きや調整に時間や手間をかけることなく、迅速に活動を開始できたという。この同好会には医師、病棟看護師、外来看護師、透析室看護師、訪問看護師、栄養士、薬剤師、検査技師、メディカルエンジニア(ME)、事務と多くの職種のスタッフが参加し、PDに関する学習会を重ねた。
 学習会を行うことで参加者のPDに関する理解が深まったことはもちろん、学習会の告知を通じて院内での認知も高まった。また、クリニカルパスの作成により各職種の連携と役割が明確化した。事務的な観点では、薬価・材料費の見直しや正確な保険点数の請求が行えるようになり、経営面での改善にもつながっている。
 また、集中治療室(ICU)や他科病棟との連携に当たっては、PD患者への対応が必要となった機会に合わせて学習会を実施。症例に応じ困ったことに対応しているため、スタッフの学習意欲が高い状態での情報提供機会となっている。さらに、訪問看護師との連携により高齢患者のPD選択を支援している他、PDを選択した患者への退院前家庭訪問を実施し、治療環境の整備や生活背景の把握にも努めている(表)。

 

4)PD希望患者を支えるための地域との連携

 今後、PDを希望する患者がさらに増えることを視野に入れ、訪問看護に加え、地域の施設とのPDでの連携も必要となると考えている。
 「地域の医療機関と連携する上で、大切なのは『連携施設が不安にならないよう配慮すること』だと思っています。3 カ月に1回は当院に定期受診してもらう、年1回は検査入院をしてもらう、トラブル時は当院で必ず受け入れる、シェアソースで治療結果を共有するなど、できるだけ不安と負担を減らすことで連携のハードルが下がるのではないでしょうか。北海道内で全日本民主医療機関連合会(民医連)に加盟している診療所とは連携を取りやすいので、まずはそこから展開していき、民医連に限らず、より多くの施設の医師、看護師にPDへの理解を深めてもらい、道内の各所でPDが可能な体制を構築できるよう努力していきたいですね」(五十嵐医師)

 

 同院の療法選択外来を受診した患者は、開設以降200例近くを数えます。PD管理患者数は開設前の2017年度と比べ、2020年度には5倍以上に増加しました(図3)。これは、正確な情報提供や患者の希望を踏まえた上での話し合いを重ねることで腎代替療法に対する理解が深まり、患者ごとに最適な治療法を選択できるようになった結果だと同院では考えています。腎代替療法におけるSDMの実践により、自ら治療に取り組み、主体的に療法を選択できる患者が1人でも増えることが望まれます。

 

図3 勤医協中央病院におけるPD管理患者数の推移

勤医協中央病院におけるPD管理患者数の推移

 

療法選択支援への課題と対策

療法選択支援への課題と対策

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