腹膜透析(PD)

PDに伴う合併症(感染症)

1 - 3.カテーテル関連感染症の治療

ISPDカテーテル関連感染症ガイドライン2017翻訳版、日本透析医学会「腹膜透析ガイドライン2019」より引用

 

1)カテーテル関連感染症の管理

 出口部感染(Exit-site infection:ESI)およびトンネル感染の起炎菌はさまざまです。ESIの起炎菌の中で最も深刻かつ多く観察されるものは黄色ブドウ球菌と緑膿菌であり、しばしば腹膜炎に進展することから、積極的な治療が必要となります。コアグラーゼ陰性ブドウ球菌とその他の菌(ジフテロイド、連鎖球菌、非結核性マイコバクテリア、真菌)も起炎菌となり得ます。

 

臨床所見と評価

 継続した出口部・皮下トンネル部の観察は、カテーテル関連感染症の早期発見の観点からも重要です。客観性のある評価方法として表に示す出口部の評価スコアの使用も推奨されます。

 

出口部の評価スコアISPDカテーテル関連感染症ガイドライン2017翻訳版より引用

  0点 1点 2点
腫脹 なし 出口部のみ; <0.5cm >0.5cm および/またはトンネル部も
痂皮 なし <0.5cm >0.5cm
発赤 なし <0.5cm >0.5cm
疼痛 なし 軽度 重度
滲出液 なし 漿液性 膿性

出口部の評価スコアでは 4 以上を感染とみなす。ただし、膿性浸出液が認められる場合は、これのみでも感染とする。4 未満の場合は感染の疑いとする。

 

感染経路と評価

 カテーテル関連感染症が維持期の腹膜透析患者に発症する場合,その病原体感染経路は以下のように考えられます。

  • 出口部→皮下トンネル周囲→外部カフ→内部カフ
    • 感染が内部カフに至った場合には腹膜炎に進展する

 

皮下トンネルの超音波検査の適応

 皮下トンネル付近の掻破創からカテーテル周囲への感染波及など,出口部感染を経ない感染進展も起こり得ることから、超音波検査の所見はきわめて重要となります。

  • トンネル感染が疑われる場合の初期評価(例:発赤および圧痛を伴わないトンネル部の腫脹)
  • トンネル感染の臨床所見が認められないESIの初期評価
  • 抗菌薬投与後のESIおよびトンネル感染の経過観察
  • 再燃性腹膜炎のエピソード

 

起因菌の同定

 カテーテル関連感染症の起因菌はきわめて多岐にわたりますので、浸出液は培養検体として採取し、顕微鏡検査に加え、好気性および嫌気性の条件下での培養検査を併用することが望ましく、可能であれば塗抹のうえグラム染色を行いましょう。

 

出口部ケア

  • ESIの発症中は、最低でも1日1回、出口部を洗浄することを推奨 

 

 

2)カテーテル関連感染症の治療

 

抗菌薬による経験的治療ISPDカテーテル関連感染症ガイドライン2017翻訳版より引用

  • ESIに対する経験的な経口抗菌薬治療として、患者にメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)あるいはシュードモナス属菌種による感染またはコロニー形成の既往がない場合には、ペニシリナーゼ抵抗性ペニシリン(例:ジクロキサシリン、フルクロキサシリン)または第1世代セファロスポリン系薬等、適切に黄色ブドウ球菌をカバーする薬剤を用いることを推奨
  • MRSAの既往がある場合にはグリコペプチドまたはクリンダマイシン、シュードモナス属菌種の既往がある場合には適切な抗緑膿菌薬を使用することを推奨

 

よく用いられる経口抗菌薬の推奨投与法を表に示す。ISPDカテーテル関連感染症ガイドライン2017翻訳版より引用

アモキシシリン 250~500 mg BD
アモキシシリン/クラブラン酸 875 mg/125 mg BD
セファレキシン 500 mg BD~TID
シプロフロキサシン 250 mg BDまたは500 mg 1日1回
クラリスロマイシン 初期投与量500 mg、その後250 mg BD
クリンダマイシン 300~450 mg TID
クロキサシリン/フルクロキサシリン 500 mg QID
エリスロマイシン 250 mg QID
フルコナゾール 経口初期投与量200 mg、その後50~100 mg 1日1回
レボフロキサシン 300 mg 1日1回
リネゾリド 300~450 mg BD
メトロニダゾール 400 mg TID
モキシフロキサシン 400 mg 1日1回
リファンピシン BW 50 kg未満の場合450 mg 1日1回
BW 50 kg以上の場合600 mg 1日1回
トリメトプリム/
スルファメトキサゾール
80 mg/400 mg 1日1回~160 mg/800 mg BD

BD=1日2回、TID=1日3回、QID=1日4回、BW=体重。

 

モニタリングと治療期間

  • シュードモナス属菌種以外のESIに対しては、有効な抗菌薬を用い、最低2週間治療を継続
  • シュードモナス属菌種によるESIおよびあらゆる起炎菌によるトンネル感染に対しては、有効な抗菌薬を用い、最低3週間治療を継続
  • カテーテルトンネル部の超音波検査は、治療への反応の評価を目的に支持されており、外科的処置の必要性の判断に利用

 

カテーテルの抜去と再挿入

  • ESI・トンネル感染の起因菌が緑膿菌やセラチアの場合、および腹膜炎を伴わない難治性ESIまたはトンネル感染(有効な抗菌薬による3週間の治療が無効な場合)の場合では、抗菌薬の投与下で新規挿入ならびに感染カテーテルの抜去を一期的に行う
  • ESIまたはトンネル感染と腹膜炎が同時に生じカテーテルを抜去した場合では、患者がPD継続を希望する場合の再挿入は、抜去後の腹膜症状の完全な消失後2週間以上経過してから行う

 

出口部変更術(subcutaneous pathway diversion :SPD)

 SPDは感染していない皮下部のカテーテルを切断し、チタニウムエクステンダーで新しいカテーテルと連結し、トンネラーで感染のない皮下を通して新たな出口部を作製し、その後に感染したカテーテルを抜去する方法です。

都筑優子、 西澤欣子、 窪田実、 他. 腎と透析. 2006; 61 別冊 腹膜透析2006: 329-331.

 

SPDは感染部分の手術になるため、新規部分に感染が波及する可能性がありますので注意しましょう。感染が広範囲におよぶ際や、緑膿菌の場合は不成功に終わる危険性があるため、抜去入れ替え術も検討しましょう。

注)チタン製エクステンダーは体内での使用の適用はないため、その使用は各施設の倫理委員会などの判断に委ねられます。

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