ISPDカテーテル関連感染症ガイドライン2017より抜粋
1)カテーテル関連感染症の診断
定義
- 出口部の皮膚の発赤の有無にかかわらず、膿性の浸出液を認める場合を、出口部感染(exit-site infection =ESI)と定義することを提案する(グレードなし)
- カテーテルのトンネル部に沿って臨床的な炎症所見または超音波検査により感染所見が認められる場合を、トンネル感染と定義することを提案する
- ISPDガイドラインでは、ESIとトンネル感染の総称としてカテーテル関連感染症と記述されている。この2つの病態はそれぞれ別に発生,または同時に発生する
感染率
- すべてのPDに関するプログラムとカテーテル関連感染症の発症率を少なくとも年に一度は見直すことを推奨する(1C)
- カテーテル関連感染症の発症率は1患者年当たりの発症数 (発生回数/年) として表記することを提案する(グレードなし)
質の継続的改善(CQI=Continuous Quality Improvement)プログラムの一環として,すべてのPDプログラムではカテーテル関連感染症の発症率を定期的にモニターすべきである
2)カテーテル関連感染症の予防
カテーテルの留置
- カテーテル挿入術直前に抗菌薬の予防投与をすることを推奨する(1A)
- カテーテル関連感染症の予防において,他の方法よりも優れることが実証されたカテーテル留置法はない(グレードなし)
カテーテルのデザイン
- カテーテル関連感染症の予防において,他のものよりも優れていると実証された特定のカテーテルのデザインはない(グレードなし)
教育プログラム
- PD患者と介助者の教育に関する最新のISPDガイドラインに従うことを推奨する(1C)
- PDの教育は、適切な資質と経験をもつ看護スタッフが実施することを推奨する(1C)
抗菌薬と消毒薬の局所への塗布
- カテーテル出口部に抗菌薬のクリームまたは軟膏を連日塗布することを推奨する(1A)
- カテーテル関連感染症の予防に優れていることが示された洗浄剤はない(弱く推奨)(2B)
- カテーテル関連感染症の予防を目的に,さまざまな洗浄剤が検討されている(表1)
表1 カテーテル関連感染症の予防のための抗菌薬,消毒薬,洗浄剤の使用
- ポビドンヨード(93-95)
- クロルヘキシジン溶液(97,103)
- Amuchina溶液/次亜塩素酸塩溶液(98-102)
- ムピロシンクリーム(25,56,106-113)
- ゲンタマイシンクリームまたは軟膏(107,108,123)
- シプロフロキサシン点耳液(121)
- 抗菌蜂蜜(128)
- Polysporin抗生物質3剤含有軟膏(129)
- ポリヘキサニド(131)
注)本邦では、ムピロシン軟膏(バクトロバン®)の適応は、『鼻腔内のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の除菌』に限られている。
出口部ケアに関するその他のポイント
- 出口部は少なくとも週2回,毎シャワー後に洗浄することを推奨する(1C)
その他の抗菌的な手法
- PDカテーテル挿入前に鼻腔内の黄色ブドウ球菌保菌についてスクリーニングを行うことを弱く推奨する(2D)
- PD患者の鼻腔内で黄色ブドウ球菌の保菌が確認された場合,ムピロシンを鼻腔内に投与することを推奨する(1B)
注)本邦では、ムピロシン軟膏(バクトロバン®)の適応は、『鼻腔内のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の除菌』に限られている。
継続的医療の質改善(CQI)
ガイドラインの勧告事項に対するアドヒアランスの程度には,PD施設間で大きなばらつきがあり,これがカテーテル関連感染症および腹膜炎の発症に影響している可能性がある。CQIプログラムは,PD患者の感染を減らすことを目的に提唱された。CQIチームは通常,腎専門医,看護師,ソーシャルワーカー,栄養士などで構成され,定期的にミーティングを開き,すべてのPD関連感染症を検討し各エピソードの根本的原因を特定する。もし一定の傾向が認められた場合は,CQIチームは調査し,問題解決のための介入プランを策定する必要がある。観察データから,CQIプログラムにより腹膜炎の発症率は低下し,治療継続率(technique survival)が改善することが示唆されている。
Perit Dial Int 2017; 37(2): 141-154
- 重症化する前に出口部感染を診断することがきわめて重要で、感染早期の対応によリトンネル感染を予防することが大切です。
- 患者に対して、毎日出口部の観察を行うよう教育し(カテーテルを引っ張りすぎて移行部を傷つけないように注意させること)、外来時に出口部の診察を怠らないことが大切です。
- 患者と医療スタッフがきちんと出口部を観察していれば、出口部・トンネル感染から波及した腹膜炎などはめったに起こりません。
丹野有道、2011、「腹膜透析療法マニュアル」、東京医学社、P182-184