バクスターPDナースカレッジテキスト 2020年改訂版 JP-200091(1)から引用
1)ヘルニア
原因
- 透析液貯留による腹腔内圧の増加
症状・診断
- 創部、陰部(陰嚢水腫)、鼠径部など組織の弱い部分に膨隆が見られ、局所の疼痛、発赤、発熱、嵌頓などの症状が出ます。
種類
- 臍ヘルニア( Umbilical herniation )
- カテーテル周囲ヘルニア( Peri catheter herniation )
- 鼠径・陰部ヘルニア( Inguinal/ Vulva herniation )
- 手術後・外傷後などの切開創ヘルニア( Incisional herniation )
治療
- 1回注液量を減量し様子観察を行う
- APD療法で腹圧の減少を図る(就寝中の仰臥位による透析液貯留により腹圧減少)
- 軽度のものはそのまま様子観察
- 外科的処置を行った場合は、術創が治癒するまではPDを一時中止するか、透析液量を減量し透析不足にならないよう管理を行う
予防
- 既往歴の情報収集、観察を行い、PD開始前からヘルニアが存在する場合は、PD開始前に外科的処置を行う
- 腹膜の外側の筋層を縫合して塞ぐ方法が最も簡易な外科的処置となるが、再発率が高いというデメリットがある
- 腹腔鏡などで腹膜の内側からにメッシュなどの人工補強材を用いて塞ぐ方法法はPD開始後の感染のリスクがあることから、上皮からの切開アプローチで患部の腹膜の外側にメッシュなどの人工補強材を用いて塞ぐ方法が多く適用される
2)横隔膜交通症(胸水貯留)
原因
- 横隔膜の脆弱、欠損部位から胸腔内へ透析液が移行する
- 右肺に生じることが多く、本性は1.1~2%の発生率(Chow LM, et al. SeminDial 16:389-394)
症状
- 胸痛、胸部圧迫感、咳嗽、呼吸困難、(貯留側の)呼吸音の減弱
- 無症状の場合もあるが、排液不良を伴う
診断
- PD液貯留前後の胸部X線写真による胸水の確認
- 胸水検体の糖試験紙への陽性反応(血中ブドウ糖濃度よりも胸水のブドウ糖濃度が高い)
- 腹腔から胸腔へのアイソトープ(99mTc-MAA )の交通の有無
- 造影剤入り透析液を用いたCTによる造影剤の交通の有無
治療
- 胸水穿刺による貯留胸水の排液を行い、2週間腹腔内を空にして待機
- 貯留液量の減量しPDで保存的に継続(APD変更、HD併用)
- 処方の変更(注液量の減量、APDへの変更、改善しない場合PD中止)
- 腹膜癒着療法(胸腔側から自己血やOK-432(ピシバニール)などを投与し胸膜を癒着させる)
- 胸腔鏡下での外科手術(テフロンパッチによる横隔膜の欠損孔の閉鎖や吻合器による縫縮術、脆弱部位のフィブリン糊塗布など)
- PDを中止しHDへ移行
R30121Ver1.0