腹膜透析(PD)

腹膜透析(PD)

PDに伴う合併症(感染症以外)

2.被囊性腹膜硬化症(EPS)

(1)定義日本透析医学会「腹膜透析ガイドライン2019」第五章より引用

瀰漫(びまん)性に肥厚した腹膜の広範な癒着により、持続的、間欠的、あるいは反復性にイレウス症状を呈する症候群(1)

 EPSとは、PD療法の継続に伴って腹膜が劣化し、その劣化した腸管腹膜(臓側腹膜)が癒着するとともに、フィブリンを主体とした炎症性被膜により覆われ、その被膜が強固になることにより腸管蠕動が著しく妨げられ、持続的、間欠的あるいは反復性に腸閉塞症状を呈する症候群であり、生命に関わるPDの最も重篤な合併症です。
 1997年に厚生省長期慢性疾患総合研究事業慢性腎不全研究班(CAPD 療法の評価と適応に関する研究班)はこの症候群を「硬化性被囊性腹膜炎(sclerosing encapsulating peritonitis: SEP)」と命名したが、当時の診断・治療指針(案)を基に2000年に国際腹膜透析学会(ISPD)で国際的な定義を示し、同時にSEPという用語は腹膜炎を必須とするとの誤解を招くため、「被嚢性腹膜硬化症(Encapsulating peritoneal sclerosis:EPS)」に変更されました(2)。

 

  • 1.    野本保夫,他.硬化性被嚢性腹膜炎(sclerosing encapsulating peritonitis、SEP)診断・治療指針(案)-1997年における改訂-.透析会誌1998; 30: 303-311. 
  • 2.    Kawaguchi Y, et al. Encapsulating peritoneal sclerosis: definition, etiology, diagnosis, and treatment. International Society for Peritoneal Dialysis Ad Hoc Committee on Ultrafiltration Management in Peritoneal Dialysis. Perit Dial Int 2000; 20(Suppl 4): S43-55.

 

(2)EPSに関する主な報告(発症率)日本透析医学会「腹膜透析ガイドライン2019」第五章より引用

 これまでのわが国の酸性透析液を使用したPD患者での前向き観察研究での検討(3)では、その発症頻度は2.5%(3.18/1、000患者・年)であり、PD歴に従って発症は増加していました。特に8年以上で有意に発症率が増加し、PD期間が長い症例ほど予後不良と報告されました(致死率:37.5%)。またScottish Renal Registry ではわが国に比べて早期より発症した症例が多くみられた報告(4)などもあり、治療期間が EPS 発症リスクに関連していることは明らかですが、治療期間を限定しても EPS 発症を完全に回避することは困難と考えられます。
 しかし、現在のわが国における中性化透析液の使用等の多面的な取り組みによる腹膜傷害の低減化、EPSの発症率低下および軽症化が期待されており、NEXT-PD研究の結果では、EPS発症率は1.0%(2.3/1,000患者・年)に減少し、EPSの臨床症状の軽度な症例が大半であったと報告されました(5)。
 また、後ろ向き研究ではありますが壁側腹膜生検組織の検討では、中性化透析液群で腹膜血管変性が少ないことが確認されました(6)(7)(8)。これらの報告からは中性化透析液でのEPS発症リスクが低減している可能性が推測されます。
 酸性液使用の患者群における経験則によりEPS を回避することを目的に腹膜透析施行期間を区切ることが施設により実施されていますが、中性化透析液の治療例を同様に取り扱うことに関する医学的根拠はありません。一方、EPS 発症と腹膜炎との関連は大きいと考えられていますが、その影響は短期施行例と長期施行例とで同じとはいえず、腹膜機能低下、腹膜透析期間、腹膜炎回数はいずれも相互に関連しており、それぞれの発症リスクに対する独立性に関しては十分な検討結果が得られていません。以上より,EPS 発症を回避するためには、発症の素因となるリスクの程度を個々の患者で経時的に把握・推測することが肝要と考えらます。

 

  • 3.    Kawanishi H, Kawaguchi Y, Fukui H, et al. Encapsulating peritoneal sclerosis in Japan: a prospective, controlled, multicenter study. Am J Kidney Dis 2004; 44: 729-37.
  • 4.    Petrie MC, Traynor JP, Mactier RA. Incidence and outcome of encapsulating peritoneal sclerosis. Clin Kidney J 2016; 9: 624-9.
  • 5.    Nakayama M, Miyazaki M, Honda K, et al. Encapsulating peritoneal sclerosis in the era of a multi-disciplinary approach based on biocompatible solutions: the NEXT-PD study. Perit Dial Int 2014; 34: 766-74.
  • 6.    Kawanishi K, Honda K, Tsukada M, Oda H, Nitta K. Neutral solution low in glucose degradation products is associated with less peritoneal fibrosis and vascular sclerosis in patients receiving peritoneal dialysis. Perit Dial Int 2013; 33: 242-51.
  • 7.    Hamada C, Honda K, Kawanishi K, et al. Morphological characteristics in peritoneum in patients with neutral peritoneal dialysis solution. J Artif Organs 2015; 18: 243-50.
  • 8.    Tawada M, Ito Y, Hamada C, et al. Vascular Endothelial Cell Injury Is an Important Factor in the Development of Encapsulating Peritoneal Sclerosis in Long-Term Peritoneal Dialysis Patients. PLoS One 2016; 11: e0154644.

 

(3)EPSの発症様式日本透析医学会「腹膜透析ガイドライン2019」第五章より引用

fig

2-Hit理論
 長期にPD透析液に曝露されることにより腹膜中皮細胞が剥離・消失すると線維化が進行し腹膜肥厚(劣化)が起こります。さらに腹膜細血管の変性(硝子様変性と内腔狭小化)が起こり腹膜透過性に変化が生じます(first hit)。この状態に何らかの炎症状態(second hit、多くは細菌性腹膜炎、その他不明な因子)が加わると腹膜細血管が新生・増生しさらに透過性が高まるとともに、アルブミンやフィブリンなどの大分子物質の透過が亢進し、肥厚線維化した腹膜表面にフィブリンの膜が形成されます(two hit theory)。
 フィブリン膜がさらに変性硬化し腸管全域を圧迫することにより腸閉塞症状を発症します。フィブリン膜は壁側腹膜から臓側腹膜に連続しており、時に内部に腹水が貯留することにより腹部CTなどによる診断が容易となります。
 腹膜劣化と被膜形成は必ずしも相関するものではなく、症例によって異なります。腹膜劣化が高度であれば、軽度の炎症でも被膜は形成され、逆に高度の炎症では腹膜劣化が軽度であってもEPSとなり得ます。この劣化と炎症のバランスは重要であり、これが比較的短期のPD症例でもEPSが発症する所以でもあります。 
 さらに、線維化が重篤な例、二次性副甲状腺機能亢進症例では被膜と変性腹膜の間にびまん性に石灰沈着が起こり、腸閉塞症状が進行する例もあります。

 

(4)EPSの診断日本透析医学会「腹膜透析ガイドライン2019」第五章より引用

 腸閉塞症状は被膜が形成され腸管を圧迫することにより発生し、一時的な絶食で改善し数か月を経て再燃します。この再燃までの期間が徐々に短くなればEPSと確定診断できます。補助診断として腹部CT検査が推奨されます。このように、EPSとは臨床的に固定・確立した病状に対してなされる診断名であることから、EPS発症の前段階とする「Pre-EPS」という診断名を用いることは推奨できないとされています。

 

(5)EPSの治療日本透析医学会「腹膜透析ガイドライン2019」第五章より引用

 EPSの治療として、現在、薬物治療(副腎皮質ステロイド、Tamoxifen)と外科治療が行われています。

 

薬物治療

薬物治療 第一選択 効果 投与時期、他
日本 副腎皮質ステロイド(9)
※海外での報告検討は限られ、副腎皮質ステロイド薬の選択するコンセンサスは得られていない
炎症を抑制することにより、腹水とフィブリン析出を防止 発症直後からの投与が必要であり、また効果発現後の減量法も重要
ヨーロッパ Tamoxifen(エストロゲン受容体調節薬)(10)(11)
※わが国での使用報告はない
線維化促進因子の遺伝子発現抑制、中皮細胞の間質細胞の形質転換抑制、変性コラーゲンの除去促進などの機序を介して、腹膜劣化を防止 オランダのEPS-GLでは、薬物療法(ステロイド、Tamoxifen)の使用方法、手術療法へのタイミングなど治療アルゴリズムを示している(12)

 薬物療法についての検討は、ケースシリーズまたは小規模な症例対象研究であり、その最終的な臨床効果に関して、現時点では明確に結論づけることはできていないのが現状です。

 

外科治療

 当初は禁忌とされていましたが(13)、わが国から腸管癒着剥離術の良好な成績が報告され(14)(15)(16)、その後、NICE-GLでは確立したEPSに対しては早期に外科治療を考慮すべきであり、経験を積んだチームによって加療されるべきとしています。EPSを熟知した外科チームによる加療は医学的妥当性があると考えられています。

 

  • 9.    日本透析医学会統計調査委員会.わが国の慢性透析療法の現況 2016年12月31日現在.http://docs.jsdt.or.jp/overview/index2016.html
  • 10.    Loureiro J, Sandoval P, del Peso G, et al. Tamoxifen ameliorates peritoneal membrane damage by blocking mesothelial to mesenchymal transition in peritoneal dialysis. PLoS One 2013; 8: e61165.
  • 11.    Huang JW, Yen CJ, Wu HY, et al. Tamoxifen downregulates connective tissue growth factor to ameliorate peritoneal fibrosis. Blood Purif 2011; 31: 252-8.
  • 12.    Habib SM, Betjes MG, Fieren MW, et al. Management of encapsulating peritoneal sclerosis: a guideline on optimal and uniform treatment. Neth J Med 2011; 69: 500-7.60
  • 13.    Kittur DS, Korpe SW, Raytch RE, Smith GW. Surgical aspects of sclerosing encapsulating peritonitis. Arch Surg 1990; 125: 1626-8.
  • 14.    Kawanishi H. Surgical treatment for encapsulating peritoneal sclerosis. Adv Perit Dial 2002; 18: 139-43.
  • 15.    Kawanishi H, Watanabe H, Moriishi M, Tsuchiya S. Successful surgical management of encapsulating peritoneal sclerosis. Perit Dial Int 2005; 25(Suppl 4): S39-47.
  • 16.    Kawanishi H, Banshodani M, Yamashita M, Shintaku S, Dohi K. Surgical Treatment for Encapsulating Peritoneal Sclerosis: 24 Years’ Experience. Perit Dial Int 2019; 39: 169-74.

 

(6)被囊性腹膜硬化症回避のための中止条件 

日本透析医学会「腹膜透析ガイドライン2019」および「腹膜透析ガイドライン2009」第五章より引用

1.    長期腹膜透析例あるいは腹膜炎罹患後の例で腹膜劣化の進行が疑われる場合,被囊性腹膜硬化症の危険性を考慮して腹膜透析の中止を検討する。

 

2.    腹膜劣化を判断するための基本的な検査として,腹膜平衡試験(PET)を定期的に行うことを提案する。

  • 治療期間がEPS 発症リスクに関連していることは明らかですが、治療期間を限定してもEPS 発症を完全に回避することは困難です(3)。
  • 基本的な定期検査としてPETを少なくとも年に一度は行い、D/P Crの推移を把握することが推奨されます。
  • D/P Crが経時的に上昇し、「High」が12か月以上持続する例では、高度の腹膜の劣化が進行していると判断して腹膜透析の中止を検討することが推奨されます。
  • 本邦の酸性透析液使用のEPS 例の70%はPD 離脱後に発症していることより(3)、PD 離脱後の排液の性状や腹膜機能の推移を観察することは、EPS発症ハイリスク例を判断する上で意義があると考えられます。ただし、この場合、カテーテルを一定期間留置することになりますので、感染性腹膜炎の危険性を勘案して行うべきです。
  • 留置したカテーテルを利用して行ういわゆる腹腔洗浄がEPS発症抑制面で臨床的に有用かについての結論は得られていません(17)(18)(19)ので、本操作も感染性腹膜炎のリスクを勘案して実施すべきとされています。

 

  • 17.    Yamamoto T, Nagasue K, Okuno S, Yamakawa T. The role of peritoneal lavage and the prognostic significance of mesothelial cell area in preventing encapsulating peritoneal sclerosis. Perit Dial Int 2010; 30: 343-52.
  • 18.    中山昌明,山本裕康,寺脇博之,他.長期 CAPD 療法中止後の腹膜透過性の変化―硬化性被囊性腹膜炎の発症機序と予防手段に関する予備的検討.透析会誌 2000; 33: 1137-42.
  • 19.    Moriishi M, Kawanishi H, Kawai T, et al. Preservation of peritoneal catheter for prevention of encapsulating peritoneal sclerosis. Adv Perit Dial 2002; 18: 149-53.

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