1)注・排液不良
(1)診断と原因
診断
- 注液時間または排液時間が通常より長くなる、注排液量の減少がみられる
注液異常の原因
- カテーテルの折れ曲がりによる機械的閉塞
- 疑血塊やフィブリンなどによる閉塞
- 排液はできるのに注液ができない→アコーディオンクロット(フィブリン)
排液異常の原因
- カテーテルの折れ曲がりによる機械的閉塞
- フィブリンや凝血塊などによる閉塞
- 膀胱による圧迫
- 骨盤外腔へのカテーテル位置異常
- 大網、卵管采、腹膜垂などの巻絡
- 腹膜前脂肪層(PPFL:Preperitoneal Fat Layer)への誤挿入
(2)診断方法
診断 | 対象 |
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腹部X-P(正面と側面) | カテーテルの位置の確認に有用 |
カテーテル・腹腔内造影 | 陰影欠損像から閉塞物や閉塞部位の特定に有用 |
腹腔内造影CT | 巻絡臓器や内腔閉塞物の特定には不向き |
腹部超音波 | 巻絡臓器・閉塞物の特定に有用 |
(3)対処方法
対処法 | 特徴 |
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カテーテルのフラッシング |
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α整復術 |
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カテーテル再留置 腹腔鏡による修復 |
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CRF (Catheter Repair by a forefinger) |
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2)カテーテル感染
診断と対応
診断:ISPD Catheter-Related Infection Recommendations: 2017 Update. PDI 2017; 37: 141-54.
- 出口部感染:皮膚発赤の有無にかかわらず出口からの膿性浸出液が認められる状況
- 皮下トンネル感染:皮下トンネル部に沿って臨床的な炎症所見あるいは超音波検査における液貯留所見が認められる状況
皮下トンネル感染に対する観血治療(非観血治療はガイドライン等を参照)
皮下トンネル感染と診断した場合は、感染の伸展度を明確にし、ベストな外科的治療を選択すべきです。外科的治療にはUnroofing、カテーテル抜去と入れ替え、出口変更術(SPD)の3種類があります。
Unroofing(JSDT PDガイドライン2019より引用)
感染したカテーテルの皮下カフを体外に導出し、皮下カフと腹膜カフの間で新出口部を形成する方法で,処置後の腹膜カフまでの距離が短くなり皮下トンネル感染症が進行した際には傍カテーテル腹膜炎に移行するリスクが上昇するとされます。
一方、新出口から腹膜カフ方向は腹直筋の内部を通過することにより血行が良く免疫系因子や白血球の動員が速いこと、皮下トンネルが短く排膿がスムーズであることなどから、皮下トンネル感染症の進行は少なく、長期にわたりPDの継続が可能な症例も多いと言われています。またこの術式の大きなメリットは,腹膜部分に触れないため,PDの継続ができる点にあります。
カテーテル入れ替え術(JSDT PDガイドライン2019より引用)
画像診断で皮下カフを越えて腹膜カフまで感染が波及している場合、起因菌が緑膿菌やセラチアの場合など、unroofingや後述のSPDでは改善が得られないような症例の場合、患者がPDの継続を望むのであれば、対側からの新規挿入ならびに感染カテーテルの抜去が有効となります。
手順として、新規挿入術創にすべてドレッシングフィルムを張り感染の波及を防止した後、感染カテーテルを抜去することから、手術時間を要する。感染腹膜カフから腹腔への細菌の垂れ込みに注意が必要であり、新規留置部と抜去部からのリークの可能性があるため一定期間のPD休止を要します。
出口変更術Subcutaneous pathway diversion (SPD)
SPDは難治性出口感染・トンネル感染に対して、①チタン製エクステンダーを用いて非感染部分の腹膜カフ側のカテーテルと新しいカテーテルを接続し、②新規の皮下トンネル・出口を作製し、③感染部分のカテーテルを取り去る外科的手技です。
感染早期のSPDにより、トンネル感染による腹膜炎の回避が可能となるが、腹膜カフに感染が及んでいる場合はSPDの適応はなく、前述の如くカテーテル入れ替え術が必要となります。
SPD留意点
- 非感染部位と感染エリア・部位をドレッシングフィルム等で分け、感染が非感染部に及ばないよう留意が必要です。
- 埋没後に接続部位の離断が起こらないようエクステンダーとカテーテルを糸やタイバンドでしっかり固定する必要があります。
- 新規カテーテルの皮下トンネル、出口は、感染カテーテルの皮下ルートからできるだけ離し、かつ交差させないことが重要です。
- チタン製エクステンダーは体内でのカテーテル延長における適応はないため、その使用は各施設の倫理委員会などの判断に委ねられます。
SPDまとめ
- PDを中断することなく処置が可能
- 長い皮下トンネルがSPDに有利
- 感染の伸展を常に評価することが有用
- SPDの可否を決定するために皮下トンネルエコーが有用
- 皮下トンネルエコーはルーチンに実施すべき
- 難治性出口感染、皮下トンネル感染には機を逃さずにSPDを行うことが有用となります。
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