7)症例に合わせて調整できる要素
処方設定因子「体格」「残存腎機能」「腹膜透過性」を考慮して、適正透析(Kt/V=1.7/週以上)を達成するために下記の5つの項目を調整して、個々の症例に合わせた処方設定を行うことになります。ただし、適正透析とはKt/Vの達成だけではなく、普段から全身状態を観察し、必要に応じてPD処方の変更か他の治療法へ変更を検討することが重要となります。
- 1. 貯留時間
- 2. 貯留量(注液量)
- 3. 交換回数
- 4. 総透析液量(貯留量と交換回数の組み合わせ)
- 5. 透析液濃度(ブドウ糖濃度)およびイコデキストリン透析液の使用
8)腹膜透析療法の種類
NPD (Nocturnal PD / Nightly PD)
夜間就寝中などに、APDサイクラー(自動腹膜灌流装置)を使用して数回の注排液を行い、APDサイクラー終了時に排液をして昼間は腹腔内に透析液を貯留しない方法です。適応としては残存腎機能が十分に保たれている症例や多くの透析量を必要としない小柄な症例ということになります。ただし、間欠的な方法であるため溶質除去に限界があり、透析不足をきたしやすい特徴がありますので、普段からの残存腎機能や全身状態のチェックが重要となります。
CCPD (Continuous Cyclic PD)
夜間就寝中などに、APDサイクラーを使用して3~5回の注排液を行い、腹腔内に透析液を貯留させた状態でAPDサイクラーを終了させます。そして昼間に腹腔内に透析液を長時間貯留した状態で過ごす方法(CCPD type I)と、CAPDと、昼間に2回(以上)のバッグ交換を追加する方法(CCPD type Ⅱ)があります。CCPDでは昼間の貯留時間が長く、ブドウ糖透析液を貯留する場合は浸透圧物質であるブドウ糖の吸収量が多くなりますので、浸透圧勾配の消失からくる限外濾過量(除水量)の低下に注意する必要があります。
TPD (Tidal PD)
APDサイクラーを使用して注排液を行う時間帯で、初回注液量の一部の量(設定変更可能)だけを頻回に注排液し、常に腹腔内に透析液を残した状態とする方法です。交換サイクルの途中の注排液の時間が減少できるため、限られた時間内で透析効率を上げることが可能となります。ただし腹腔内に常に設定された残液があるため1サイクル当たりの透析効率が低くなるという特徴もありますので、透析不足が想定される場合はAPDサイクラーでの透析液量を増加させたり、昼間の交換を追加したりする必要があります。
9)残存腎機能に合わせたAPD処方
PD導入当初は残存腎機能が十分残っているので、夜間のみAPDサイクラー(自動腹膜灌流装置)を用いて昼間の貯留をしないNPDから始める処方が多いようです。
ただし、残存腎機能の徐々な低下に伴い、NPD処方で透析不足をきたす場合には、日中に1バッグの貯留を行う、日中や夜間もしくは両方の注波量を増やす、さらに日中交換を加えるという処方の変更が必要となります。
通常のNPDを行っている症例で体液貯留傾向を呈す場合は、長時間貯留での除水効率が高いイコデキストリン透析液(エクストラニール)を日中貯留に用いることが有効です。このNPDとイコデキストリン透析液の組み合わせはE-APDと呼ばれています。E-APDの特徴は、残存腎機能が低下してきたNPD症例の昼間に長時間貯留(8~12時間)にイコデキストリン透析液を用いることで、バッグ交換回数を増加せずに透析効率を上げることができるということです。
販売名:エクストラニール腹膜透析液 (承認番号:22000AMX02453000)
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