1)PD開始時の処方例
- 低濃度のブドウ糖透析液を用いて少量から徐々に注液量を増量して、約2週間かけて症例に合わせた液量まで増やします。 このプロセスで、以下のポイントに注意しながら徐々に液量を増やします。
- 注液による腹満で食事量が落ちないか?
- 注液による負担で腰痛や臥位での呼吸苦はないか?
- 血糖の上昇はないか?
- 体格が大きい場合や早期に尿毒症の是正を要する症例の場合は、1Lの注液でリークがないことが確認され次第、1.5Lまで注液量を増量してよいですが、液漏れが想定される場合は術後2週間までは2Lの注液を行わない、などの工夫が必要になる場合があります。
- 退院後の症例の生活様式に配慮し、有用と考えられる場合は積極的にAPDの施行を考慮します。
2)処方設定の因子
PD処方の設定に影響を与える因子として、患者個々の体格、残存腎機能、腹膜透過性が挙げられ、これらに留意して処方を組み立てる必要があります。
経験的PD処方でPD開始後、処方設定因子に基づいて、個々の症例に合った処方、治療法に変更を行いましょう。
処方設定因子 | 意味するもの | 指 標 |
---|---|---|
体格 | 代謝(老廃)物産生能 | 体表面積 体液量(溶質分布容積) |
残存腎機能 | 透析量の補足 | 尿量 クリアランス |
腹膜透過性 | 腹膜物質透過の特徴 | PET |
3)処方設定 – 体格の影響

この場合の体液量 40Lは体重がほぼ70kgの方に相当します(40÷0.58≒69)。 体重が50kgの方では 50 kg × 0.58 = 29 L (体液量)となり、週当たりKt/V = 70L ÷ 29L ≒ 2.4 となります。
同じ腹膜透過能でも体格によって蓄積される老廃物の量、透析効率に差があることに留意してPD処方を決定しましょう。
4)処方設定 – 残存腎機能の影響

尿の濃縮度合(U/P)と尿量がともに残存腎機能の評価の指標となります。尿量が多くても濃縮されていない、いわゆる空尿では体液管理としては一定のメリットがあると思われますが、塩分や老廃物の除去としてのメリットは薄れるので、濃縮度合いと量の両方を加味して処方を検討しましょう。
また、PDの処方設定では残存腎機能の貢献を差し引いて残りをPDで賄うという考え方になります。
5)処方設定 – 腹膜透過性の影響

- H(High) Transportは短時間貯留でクリアランスの効率が良いですが、長時間貯留ではグルコースの吸収により除水の効率が低下し、リンパ行性で水が再吸収されるとともに小分子の溶質も吸収されるため、透析効率が落ちてしまいます。
- L(Low) Transportは短時間貯留での溶質除去の効率は悪いので、ある程度の長時間貯留が必要となります。除水効率は良いです。

よってH Transportは一回当たりの貯留時間が短いAPDの方が向いているということになり、L Transportは一回当たりの貯留時間が長いCAPDの方が向いているということになります。
6)処方設定因子から透析液量を求める
患者個々に応じた透析量(週当たりKt/V1.7以上)を得るために、処方設定因子である「体格」「残存腎機能」「腹膜透過性」を考慮して1日あたりの透析液量を求めます。
PDの処方設定においては残存腎機能の貢献を差し引いて残りをPDで賄うという考え方になります。
例)体重60kg 男性の場合
24時間蓄尿データ | 尿量:500mL、UN:300mg/dL、Cr:70mg/dL |
24時間排液データ | 排液量:7,000mL、 UN:60mg/dL、Cr:6mg/dL |
血液データ | BUN:60mg/dL、Cr:10mg/dL |
目標Kt/Vを週当たり1.7以上として各処方設定因子から1日あたりの必要透析液量を算出することができます。実測データを上記のように想定した場合、この症例には1日あたり6Lの透析液が必要ということになります。
実際には飲水量と体重、血圧などを観察し、適正な除水を得るために透析液濃度を決定する必要があります。

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