2)EPSのステージ分類別治療法
ステージ | 臨床所見 | 治療方針 | |
---|---|---|---|
ステージ1 | EPS前期 | UF不全、高透過性状態 低蛋白血症 血性排液、腹水貯留 腹膜の石灰化 |
腹膜休息 腹腔洗浄 ステロイド |
ステージ2 | 炎症期 | CRP高値、白血球高値、熱発 血性排液、腹水貯留 体重減少、食欲不振、下痢 |
ステロイド |
ステージ3 | 被嚢期(進行期) | 炎症徴候の消失 イレウス症状(嘔気嘔吐、腹痛、便秘、腹部腫瘤、腹水) |
ステロイド TPN |
ステージ4 | イレウス期(完成期) | 食欲不振 完全なイレウス 腹部腫瘤 |
外科的処置 |
Diagnosis and treatment of EPS, Perit Dial Int 25, Supplement 4, 2005.
EPSの治療としては、中心静脈栄養(TPN)による腸管安静、ステロイド、開腹癒着剥離術が行われています。腹腔内の炎症を抑制する目的で免疫抑制薬(特にmycophenolate mofetil: MMF)や線維化を抑制する目的でtamoxifenの投与が試みられていますが、有効性は確立されていないのが現状です。
EPS前期
腹膜劣化を抑制する予防的治療法として、生体不適合な透析液、高浸透圧ブドウ糖使用、腹膜炎を避けることが重要となります。
炎症期
腹膜の線維化と硬化の進展に加え、細菌性腹膜炎や腹腔内の慢性炎症によってEPSが誘発されます。血中CRP上昇や、排液中IL-6、FDPの上昇などがみられことから、この時期にステロイドが有効な症例がみられます。
被嚢期
透過性の亢進した腹膜からフィブリンが析出し、腹膜表面に被膜が形成されます。このフィブリンを洗い流し、被膜形成を防止するために腹腔洗浄が有効との報告もあります。
イレウス期
被囊化した腸管が互いに癒着し、通過障害を起こします。この時期には開腹癒着剥離術が適応となりますが、再手術率は20%と高い値を示します。
【内科的治療法】
- ステロイド投与
- EPS stage Ⅰ,Ⅱでの有効性は確立(A)
- 投与方法
・5~10mg/日の少量連日投与
- EPS stage Ⅰ,Ⅱ
・0.5~1.0mg/日の中等量連日投与
- EPS stage Ⅰ,Ⅱで炎症が強い場合(B)
- EPS stage Ⅲ(パルスの後に少量連日投与に移行)(B)
・最低一年間は継続し、炎症所見が改善していることを確認(C)
- 免疫抑制薬
- 確立した治療法ではなく、ステロイドが使用できない症例に限定(C)
エビデンスレベル | A:大規模研究、あるいはそれに準じる研究によって確認されている |
B:大規模研究ではないが、多くの報告が認められかなり信頼性が高い | |
C:いくつかの報告が認められている |
中元秀友. 腎と透析. 2007; 62(3): 646-654.
ステロイドの効果は、炎症を抑え腹水とフィブリン析出を防止することによると考えられますが、炎症時期、すなわちEPS発症前に腹水が増加する時期(pre-EPS)または発症直後でないと効果が得られず、被膜が形成され、腸閉塞症状が確立したEPSに対してのステロイドの効果は期待できません。 まれにステロイド投与により効果が得られるものの、減量すると再燃する症例もあり、腸管浮腫に対する効果が示唆されますが、慎重な減量が必要となり,これらの治療は難渋することが多いと言われています。 免疫抑制薬の有効性に言及したいずれの報告もステロイドを併用しており、EPSに対する免疫抑制薬単独の臨床効果について言及している報告はないようです。 一定の有効性が認知されていると考えられるステロイドでさえも、投与時期、投与量、特に病態によっては無効例も認められるため、免疫抑制薬においても同様のことが考えられます。
(1)中止基準(腹膜透析ガイドライン) 第5章:被囊性腹膜硬化症回避のための中止条件
- 長期腹膜透析例あるいは腹膜炎罹患後の例で腹膜劣化の進行が疑われる場合、被囊性腹膜硬化症の危険性を考慮して腹膜透析の中止を検討する。(エビデンスレベルⅣ)
- 腹膜劣化を判断するための基本的な検査として、腹膜平衡試験(PET)を定期的に行うことを推奨する。(エビデンスレベルⅥ:委員会オピニオン)
2009 年版日本透析医学会「腹膜透析ガイドライン」 2009.透析会誌 Vol.42(4)285-315
- 治療期間がEPS 発症リスクに関連していることは明らかであるが、治療期間を限定してもEPS 発症を完全に回避することは困難である。よってガイドラインでは具体的なPD施行期間の上限は設けられていない。
- 本委員会では、基本的な定期検査としてPETを少なくとも年に一度は行い、D/P Crの推移を把握することを推奨する。
- D/P Crが経時的に上昇し、「High」が12か月以上持続する例では、高度の腹膜の劣化が進行していると判断して腹膜透析の中止を検討する。
- 本邦のEPS 例の70%はPD 離脱後に発症していることより、PD 離脱後の腹腔内の変化を観察することは臨床的に重要である。
- 腹膜劣化が疑われる長期施行例においては、腹膜透析カテーテルをPD離脱後も一定期間留置し、排液の性状や腹膜機能の推移を観察することは、EPS発症ハイリスク例を判断する上で意義があると考えられる。ただし、この場合、感染性腹膜炎の危険性を勘案して行うべきである。