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PDに伴う合併症(感染症以外)

(監修: 東京慈恵会医科大学 腎臓・高血圧内科 丹野有道先生)

腹膜透析(Peritoneal Dialysis:PD)の感染症以外の合併症には各種ありますが、そもそもそのような患者を診療する機会がないとその留意点に意識が向くこともありません。そのような腹膜透析(PD)関連合併症に出会った時に参考になる対応を示します。

 

1.除水不全

1)概要

除水不全とは
  • 適正な透析を行っているにもかかわらず十分な除外濾過量が得られずに必要な水分除去が確保できない状態を示しており、目安として、2.5%の透析液2Lを1日4回使用しても除水量が500mL未満という基準が掲げられている。
  • 除水不全は、腹膜機能低下による溶質透過能亢進に伴って出現することが多く、透析期間の進行とともに増加がみられ、長期的には腹膜透析離脱の原因となる重要な合併症である。
診断
  • 除水量の低下が出現した時には、はじめに排液障害を除外した後、透析スケジュールの確認やPETを行い、除水不全の原因に対する診断を進めていく。
対処法
  • 塩分摂取の制限、利尿剤の投与、透析液の貯留時間の短縮やAPDの活用、ブドウ糖濃度が高い透析液やイコデキストリン透析液の処方、トラネキサム酸の投与、PD+HD併用療法の導入、HDへの移行などがある。

早川洋、2011、「腹膜透析療法マニュアル」、東京医学社、P210-215

  • 体重増加や浮腫の増強、血圧の上昇といった体液管理の悪化がみられた場合、塩分摂取の増加やそれに付随する水分摂取過剰によるinの問題と、限外濾過量や尿量の減少によるoutの問題の両面から検討することが大切です。
  • 除水不全は、透析期間の進行とともに出現頻度の増加が見られ、腹膜機能低下の一症状として認められることもありますが、腹膜の限外濾過能には個体差があるため腹膜透析(PD)導入当初より呈する場合もあります。
  • 残存腎機能が保たれている時期には、尿量の増加によって代償されて腹膜透析(PD)継続の障害とならないことがあるものの、長期的には腹膜透析(PD)離脱の最も大きな原因を占める重要な合併症です。

2)体液貯留時の鑑別と対処

(1)診断の進め方

除水不全の診断の進め方

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早川洋、2011、「腹膜透析療法マニュアル」、東京医学社、P210-215

  • 排液量の低下を認めた場合、まずカテーテルの位置異常や通過障害と胸腔・後腹膜腔・ヘルニア嚢など他のスペースヘの交通による液漏れといった排液障害を原因とした残液量の増加が無いかどうかを確認します。また、透析のスケジュールを再確認して、透析液の貯留時間が適当であるかどうかの検討を行います。
  • 貯留時間が長くなるにしたがって、ブドウ糖の吸収と濾過された液による希釈により浸透圧格差が減少して行くため限外濾過量は減少し、一定時間を超えるとかえって吸収量の方が増えて最終的にマイナスバランスとなってしまうこともあります。
  • 高濃度のグルコース透析液であってもコンピューターシミュレーション上、貯留時間約3~4時間で除水量はピークを迎え、それを過ぎると減少傾向を示します。
  • 短時間貯留においても除水が行えない場合、PETを施行して溶質除去能を評価します。一般に、除水不全を呈する際には溶質除去能が亢進していることが多く、これに伴って透析液中のブドウ糖の吸収も速くなり、体液・透析液間の浸透圧勾配の維持される時間が短縮して限外濾過が得られにくくなっているといった病態が想定されます。
  • 反対に、溶質除去能が低下しているようなときには、腹膜全体を有効に利用できていない可能性があり、腹膜の癒着やEPS(※「2.被囊性腹膜硬化症(EPS)」参照)に伴う透析液の分布障害や有効腹膜面積低下に関する検討が必要となります。
  • これら溶質除去能とは直接関連せずに除水量の減少を引き起こす因子として、リンパ管からの吸収増加があります。この経リンパ水分吸収量の測定には、 コンピュータープログラムソフトによる解析やシンチグラムを用いた計測法がありますが、精度や簡便性といった面で問題があり、日常臨床において正確な評価をするのは難しいのが現状です。なお、種々の検査によっても除水不全の原因が明確にならない症例もみられます。

(2)具体的な対処法

除水不全の具体的な対応策

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早川洋、2011、「腹膜透析療法マニュアル」、東京医学社、P210-215

  • 十分な除水ができず日々体重が増加してしまう状況では、適切な対処を行わないとうっ血性心不全のような生命に関わる重篤な合併症を引き起こしかねません。このような場合、まず塩分摂取制限の強化や水分摂取の抑制、利尿薬の増量によって体液量のコントロールを試みます。また、緊急時には臨時のECUMやHDの施行も考慮しましょう。
  • バッグ交換回数が少なく長時間貯留が多くなるような状況では、溶質除去量に余裕があれば均等な時間配分にせずに、貯留なしの時間を設けて短時間での交換を行うことで除水量が確保できる可能性があります。また、バッグ交換回数自体を増やして、貯留時間を短縮して総除水量を増やす方法もあります。
  • 生活環境からどうしても日中の短時間交換の設定が困難な例では、APDを導入して夜間の短時間頻回交換で除水を得るといった方法もあります。また、長い時間帯に使用する透析液をイコデキストリン透析液に変更することで、良好な除水が得られることもしばしば経験されます。
  • 短時間のバッグ交換でも除水が得られない場合、高濃度グルコース透析液の使用が選択肢に上がりますが、腹膜障害への影響を考慮してなるべく回数は少なくすることが望ましいと思われます。特に4.25%の最も高濃度のグルコース透析液は緊急時のみにとどめ、日常的な使用は避けることが推奨されます。
  • 高濃度グルコース透析液を頻回に使用しなければ除水が得られないような症例では、腹膜透析(PD)継続の可否を検討することが推奨されます。
  • リンパからの吸収による除水量の減少が疑われる場合、トラネキサム酸の経口内服により除水量の増加が得られる例があります。この際、注意すべき合併症として、排液中に析出するフィブリンの増加があります。このため、トラネキサム酸投与時は排液中のフィブリン量のチェックやそれに伴うカテーテル閉塞、排液障害の出現に十分注意してフォローすることが大切です。投与量は250 mg/日が目安になります。
  • これらの保存的治療によっても体液量のコントロールがつかない場合、PD/HD併用療法の導入やHDへの変更を考えましょう。