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PDに伴う合併症(感染症)

2 - 2.PD腹膜炎の実際の治療 (2)

(2)起炎菌同定後の腹膜炎治療

  • 培養結果と感受性が一旦確定すれば、より適切なスペクトルをもつ抗菌薬に変更しなければならない
  • 残存腎機能がある患者(GFR ≧ 5mL/min/1.73m2)では、腎排泄量を考慮した適切な抗菌薬投与量にする必要がある(オピニオン)。

難治性腹膜炎

  • 難治性腹膜炎とは「適切な抗菌薬が投与されているにもかかわらず5日以内に好転しないもの」と定義されている。この場合には将来に向けて腹膜機能を温存するためにカテーテル抜去を行うべきである (エビデンス)。

再燃性,再発性,反復性の腹膜炎

  • 再燃性、再発性、反復性の腹膜炎を臨床上認めた場合、その治療予後はよくないことが考えられる (特に再発性腹膜炎)。適切な時期でのカテーテル抜去が強く推奨される (オピニオン)。

原著論文:Li PK, et al. Perit Dial Int. 2010; 30(4): 393-423.

薬剤感受性に従って選択すべき抗菌薬を再評価し、積極的にde- escalationして治療を継続する。適切な抗菌薬の投与により、通常のPD腹膜炎であれば5日以内に排液は清明となるものの、腹膜炎を完治させるためには原則として14日間以上の抗菌薬投与が必要とされている。

  • 緑膿菌の場合は、21日間以上の投与が推奨されている(緑膿菌が起炎菌の際には、積極的にカテーテルの抜去を考慮する)。

一般に、グラム陽性球菌によるPD腹膜炎の治療反応性は良好だが、グラム陰性菌あるいは真菌の場合には難渋する場合がある。

 

腹膜炎に関する用語

Repeat 前回の腹膜炎の治療が終了した後、4週間以上経過した後に発症した腹膜炎であり、病原微生物は同一 (訳者注: 反復性)
Recurrent 前回の腹膜炎の治療が終了した後、4週間以内に発症した腹膜炎であり、病原微生物は異なったもの (訳者注: 再発性)
Relapsing 前回の腹膜炎の治療が終了した後、4週間以内に発症した腹膜炎であり、病原微生物は同一かまたは菌が検出できないもの (訳者注: 再燃性)
Refractory 適切な抗菌薬が使用されているにもかかわらず、5日経過しても排液が清明にならない場合 (訳者注: 難治性)
Catheter-related peritonitis 出口またはトンネル感染と同一菌による腹膜炎、どちらか一方から微生物が検出されない場合も含む (訳者注: カテーテル関連腹膜炎)

PD関連腹膜炎におけるカテーテル抜去の適応

  • 難治性腹膜炎
  • 再燃性腹膜炎
  • 難治性出口感染と皮下トンネル感染
  • 真菌性腹膜炎
  • 以下の事例もカテーテル抜去を考慮
    • 反復性腹膜炎、マイコバクテリウム属による腹膜炎、複数の腸内細菌による腹膜炎

原著論文:Li PK, et al. Perit Dial Int. 2010; 30(4): 393-423.

反復性腹膜炎

原因として
1)バッグ交換時の不潔操作に伴う汚染
2)出口部感染やトンネル感染に伴う汚染(不顕性のトンネル感染)
3)宿主の感染防御機能の低下

などが考えられます。培養結果が明らかになるまでは、過去の感染履歴と感受性パターンを参考に、グラム陽性菌および陰性菌の両者に有効な抗菌薬を選択し、起炎菌が同定された後は、適切な抗菌薬に変更しましょう。バッグ交換時の不潔操作が原因であれば、再教育および接続システムの変更を検討しましょう。しかし、それらの手段が無効、あるいはカテーテルヘのバイオフィルム形成など、他の原因が想定される際には,カテーテル抜去を考慮しましょう。

 

再発性腹膜炎

反復性腹膜炎の項で示した原因に加えて、抗菌薬治療に伴う菌交代現象や腹腔内病変の存在が考えられ、難治となることが多い腹膜炎です。培養結果に従って適切な抗菌薬の投与を行うと同時に、反復した原因を再評価する必要があります。腹腔内病変が疑われ、再発を繰り返す症例では、カテーテル抜去を含めた外科的治療を検討しましょう。

 

再燃性腹膜炎

初期治療は基本的に反復性腹膜炎と同様ですが、PD腹膜炎が再燃する原因として
1)不十分な抗菌薬治療によるコロニーの残存
2)腹腔内膿瘍形成
3)バイオフィルム形成
4)腹腔内病変

などを考慮しましょう。必要に応じて、遅滞なく外科的治療を行いましょう。


ISPDガイドライン 【コアグラーゼ陰性表皮ブドウ球菌】

コアグラーゼ陰性表皮ブドウ球菌による腹膜炎

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  • * コアグラーゼ陰性ブドウ球菌による腹膜炎を繰り返す場合は,カテーテルバイオフィルムである可能性が高い。
  • ** カテーテル抜去後の抗菌薬投与期間ならびにPD再開時期については臨床経過に基づいて判断する。

原著論文:Li PK, et al. Perit Dial Int. 2010; 30(4): 393-423.

  • 表皮ブドウ球菌を含むコアグラーゼ陰性のブドウ球菌による腹膜炎は基本的にはタッチコンタミネーションによるものであり、一般的に腹膜炎の程度はそれほど激しいものではなく、抗菌薬によく反応する。時としてバイオフィルム形成による再燃性腹膜炎に至ることがある。このような状況ではカテーテル入れ替えが推奨される (エビデンス)。

ISPDガイドライン 【腸球菌/連鎖球菌】

腸球菌 / 連鎖球菌による腹膜炎

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  • * 感受性に基づいて抗菌薬を選択。VREに対してリネゾリドを使用するが、投与10-14日後にみられる骨髄抑制に留意する。
  • ** 抗菌薬のメーカー添付文書には、同一の輸液の中に混注してはならないと記載がある。
  • *** カテーテル抜去後の抗菌薬投与期間ならびにPD再開時期については臨床経過に基づいて判断する。

原著論文:Li PK, et al. Perit Dial Int. 2010; 30(4): 393-423.

  • 一般に、連鎖球菌による腹膜炎は抗菌薬投与によく反応するが、腸球菌による腹膜炎は重症化しやすい。このため腸球菌が疑われる場合はアンピシリンの腹腔内投与が最も効果的である (オピニオン)。
  • バンコマイシン耐性腸球菌 (VRE) がアンピシリン感受性であれば、アンピシリンはその際の抗菌薬選択の1つとなる。そうでなければ、リネゾリドまたはキヌプリスチン/ダルフォプリスチンをVRE性腹膜炎の治療に用いるべきである (オピニオン)。

ISPDガイドライン 【黄色ブドウ球菌】

黄色ブドウ球菌による腹膜炎

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  • * MRSAの場合には、リネゾリド、ダプトマイシン、キヌプリスチン/ダルフォプリスチンを用いる。
  • ** ディコプラニンを用いる場合には、5-7日毎に15mg/kgを投与する。
  • *** 結核が蔓延している地域では、黄色ブドウ球菌治療へのリファンピシンの使用を抑える。

原著論文:Li PK, et al. Perit Dial Int. 2010; 30(4): 393-423.

  • 黄色ブドウ球菌は重篤な腹膜炎を起こす。その場合の多くはタッチコンタミネーションによるものであるが、カテーテル感染に由来する場合も少なくない。出口あるいはトンネル感染が原因となった腹膜炎は抗菌薬のみでは治療が困難でカテーテル抜去を必要とする (エビデンス)。
  • リファンピシンは黄色ブドウ球菌性腹膜炎の再燃、反復の予防手段の1つであるが、他の投薬治療を受けている患者ではリファンピシンによる薬物代謝促進の影響を考慮する必要がある (オピニオン)

ISPDガイドライン 【培養陰性】

培養陰性の腹膜炎

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  • * カテーテル抜去後の抗菌薬の投与期間,ならびにPDの再開時期については臨床経過に基づいて判断する。

原著論文:Li PK, et al. Perit Dial Int. 2010; 30(4): 393-423.

  • その施設における腹膜炎の対応システムにおいて 20 % 以上の培養陰性率があるとすれば、培養の方法について見直し、改善されなければならない (オピニオン) 。

ISPDガイドライン 【緑膿菌】

緑膿菌による腹膜炎

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  • * カテーテル抜去後の抗菌薬の投与期間,ならびにPDの再開時期については臨床経過に基づいて判断する。

原著論文:Li PK, et al. Perit Dial Int. 2010; 30(4): 393-423.

  • 緑膿菌による腹膜炎は、黄色ブドウ球菌による腹膜炎と同様にカテーテル感染に関連している場合が多い。このような場合にはカテーテル抜去が必要となる。緑膿菌による腹膜炎に対しては常に2種類の抗菌薬の使用が必要である (エビデンス)。
  • カテーテル感染がない際には、異なるメカニズムの2種類の抗菌薬、具体的には経ロキノロン、セフタジジム(CAZ)やセフェピム(CFPM)、トブラマイシン(TOB)、ピペラシリン(PIPC)などを感受性に基づき投与することが推奨されている。適切な抗菌薬の投与にもかかわらず臨床的改善を認めなければ、難治性腹膜炎としてカテーテルを抜去する必要がある。

ISPDガイドライン 【その他単一グラム陰性菌】

その他単一のグラム陰性菌による腹膜炎

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  • * 抗菌薬の選択は常に感受性に基づいて行わなければならない。

原著論文:Li PK, et al. Perit Dial Int. 2010; 30(4): 393-423.

  • 単一のグラム陰性菌によるPD腹膜炎は接触、出口部感染もしくは腸炎、憩室炎、便秘などに伴う経腸管感染の可能性を考える(エビデンス)。
  • 大腸菌やプロテウス属、クレブシエラ属など単一のグラム陰性菌が同定された場合には、感受性、安全性、簡便性に基づいて抗菌薬を選択するが、セファロスポリン(セフタジジム、セフェピム)などが推奨される。しかし、腹腔内病変やバイオフィルム形成が認められる症例では、適切と思われる抗菌薬を投与しても、臨床的に有効性を認めないことがあり、カテーテルの抜去や死亡に至るケースもあるため、十分な注意が必要と考えられる。

ISPDガイドライン 【複数菌】

複数菌による腹膜炎

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  • * カテーテル抜去後の抗菌薬の投与期間、ならびにPDの再開時期については臨床経過に基づいて判断する。

原著論文:Li PK, et al. Perit Dial Int. 2010; 30(4): 393-423.

  • 複数の腸内細菌、特に嫌気性菌が検出された場合には死に至る危険性は高くなり、外科的な検討が絶対に必要である (エビデンス)。
  • 一般に複数のグラム陽性菌による腹膜炎は抗菌薬によく反応する (エビデンス)。
  • 複数の腸内細菌が起炎菌である場合、壊疸性胆嚢炎や虚血性大腸炎、憩室炎、虫垂炎のような腹腔内病変を考慮する必要があり、メトロニダゾールとアンピシリン(ABPC)やセフタジジム(CAZ)、またはアミノグリコンドを併用するよう推奨している。

ISPDガイドライン

コリネバクテリウム属による腹膜炎
  • コリネバクテリウム属は稀な菌であるが、腹膜炎、出口感染の原因となりやすい。多くの場合、抗菌薬のみの治療で完治する (オピニオン)。
真菌による腹膜炎
  • 真菌性腹膜炎は重篤な合併症である。細菌性腹膜炎の抗菌薬治療後の腹膜炎は特にその可能性を疑うべきである。顕微鏡的に、または培養から真菌が同定されたならば、ただちにカテーテル抜去を行う (エビデンス)。
マイコバクテリウム属による腹膜炎
  • マイコバクテリウム属による腹膜炎は頻度の高いものではない。しかしながら診断は困難なものであるといえる。本病態が考えられるときには、培養に際しては特別な注意を払う必要がある。そして、治療には多剤を用いる (エビデンス)。

原著論文:Li PK, et al. Perit Dial Int. 2010; 30(4): 393-423.

【真菌性腹膜炎】

  • 真菌が顕微鏡下または培養で確認された際には、抗真菌薬(frucytosineおよびFruconazole)を投与するとともに、ただちにカテーテルを抜去する必要がある。抗真菌薬は、カテーテル抜去後も10日間は継続する。真菌性腹膜炎は重篤であり、死亡率は25%以上にのぼるが、適切なカテーテル抜去により死亡リスクが減少するとのエビデンスが示されている。
  • ISPDガイドラインでは、初期治療としてamphotericin BとFrucytosineの併用やvoriconazole, caspofunginなどの使用を推奨している。amphotericin Bの腹腔内投与は、化学的刺激による腹膜炎や痛みを引き起こす危険性があり、また静脈内投与では腹腔内への移行性が十分ではない等の問題がある。

腹膜炎治療期間
  • ISPDの見解は最短の腹膜炎治療期間は2週間であるとした。しかしながら、重症例では3週間とすることが推奨される (オピニオン)。
PD関連感染のカテーテル抜去と再挿入の問題
  • ISPDはカテーテル抜去は再燃性腹膜炎、難治性腹膜炎、真菌性腹膜炎、および難治性カテーテル感染の場合に実施すべきであると勧告する。重視すべきは、「カテーテルの温存」ではなく「腹膜をいかに護るか」である (オピニオン)。
腹膜炎の再発予防
  • 再燃性腹膜炎の頻度は、常にチェックする。腹膜炎発症の度に、原因分析を行う。それにより、病因を明らかにするとともに、改善できる危険因子であれば介入を行うことでその後の発症を予防する。
  • 例えば、単一のグラム陽性菌性腹膜炎は主にタッチコンタミネーションやカテーテル関連感染によるものである。特に黄色ブドウ球菌性腹膜炎はタッチコンタミネーションとカテーテル関連感染が関与している。単一のグラム陰性菌性腹膜炎もまた、タッチコンタミネーション、出口感染、腸管からの菌の移行 (便秘、腸炎) が関与している。
  • 患者が抗菌薬を使用している場合は培養陰性となることがある。
  • 病因を明らかにするためには、患者の手技を確認する。そして、必要に応じ、PD経験のあるPD看護師による患者の再教育を実施すべきである。

原著論文:Li PK, et al. Perit Dial Int. 2010; 30(4): 393-423.