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PDに伴う合併症(感染症)

2 - 2.PD腹膜炎の実際の治療 (1)

(1)経験的治療

抗菌薬の経験的な選択

  • 抗菌薬の経験的治療ではグラム陽性菌性腹膜炎とグラム陰性菌性腹膜炎の両方を対象にしなければならない。本委員会は、経験的治療については、各施設において過去に起こした腹膜炎の起炎菌に対する感受性に基づいてそれぞれ決めておくことを推奨する(オピニオン)。
    グラム陽性菌はバンコマイシンまたはセファロスポリンで、また、グラム陰性菌は第3世代のセファロスポリンまたはアミノグリコシドで対応する(エビデンス)

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原著論文:Li PK, et al. Perit Dial Int. 2010; 30(4): 393-423.

  • PD腹膜炎の治療に際してはまず培養検査およびグラム染色による評価を行いましょう。しかし、培養検査は時間を要し、グラム染色も陽性率が低いため、経験的治療にて抗菌薬の投与を開始せざるを得ないのが実情です。
  • 各施設で経カテーテル感染の頻度が高い場合は、経験的に起炎菌として黄色ブドウ球菌や表皮ブドウ球菌などのグラム陽性球菌を想定し、第一選択薬としてセファロスポリンなどをまず投与しますが、経カテーテル感染の減少に伴い、経腸管感染である可能性が相対的に増加してくるため、その場合は、グラム陰性菌も念頭において第3世代セフェムまたはアミノグリコンドの併用投与を考慮するべきでしょう。 グラム陰性菌は、現在PD腹膜炎の全体の20~30%を占めると言われており、その対処の重要性が増しています。
  • 起炎菌や感染経路が明らかでない段階で、タッチコンタミと決めつけてグラム陽性球菌のみをターゲットとした経験的治療を行うべきではありません。また、タッチコンタミが疑われる際には、速やかにカテーテル遠位部(接続チューブ)の交換を行いましょう。
  • 培養検査にて起炎菌および薬剤感受性が明確になるまでは、東京慈恵会医科大学病院では、経験的治療としてセフォチアム(パンスポリン1g/日)の静脈内投与とトブラマイシン(トブラシン60 mg/日)の腹腔内投与を併用しています。
  • 経験的な初期治療を行う際には、感染経路に加えて、起炎菌の施設特異性を考慮する必要があり、各施設で過去の腹膜炎における起炎菌の傾向を把握しておく必要があります。
  • MRSAの発症が多い施設では、腹膜炎を速やかに治療するために第一選択肢としてバンコマインンを選択すべきでしょう。
  • アミノグリコンドの投与に関しては、残存腎機能への影響が危惧されるものの、明確なエビデンスがないため、ISPDガイドラインでは短期間の投与に限り容認しています。

ISPDガイドライン 【CAPD患者への腹腔内抗菌薬推奨投与量】

  間欠
(交換毎、1日1回)
連続
(mg/L、すべての交換毎)
アミノグリコシド
アミカシン 2 mg/kg LD 25, MD 12
ゲンタマイシン、ネチルマイシン、トブラマイシン 0.6 mg/kg LD 8, MD 4
セファロスポリン
セファゾリン、セファロチン、セフラジン 15 mg/kg LD 500, MD 125
セフェピム 1000 mg LD 500, MD 125
セフタジジム 1000 – 1500 mg LD 500, MD 125
セフチゾキシム 1000 mg LD 250, MD 125
ペニシリン
アモキシシリン データなし LD 250 – 500, MD 50
アンピシリン、オキサシリン、ナフシリン データなし MD 125
アズロシリン データなし LD 500, MD 250
ペニシリンG データなし LD 50,000単位, MD 25,000単位
キノロン
シプロフロキサシン データなし LD 50, MD 25
その他
アズトレオナム データなし LD 1000, MD 250
ダプトマイシン データなし LD 1000, MD 250
ダプトマイシン データなし LD 100, MD 20
リネゾリド 経口にて 200 – 300 mg 連日
テイコプラニン 15 mg/kg LD 400, MD 20
バンコマイシン 5 – 7日毎に15 – 30 mg/kg LD 1000, MD 25
抗真菌薬
アムホテリシン 該当なし 1.5
フルコナゾール 24 – 48時間毎に 200 mg IP  
配合製剤
アンピシリン / スルバクタム 12時間毎に 2g LD 1000, MD 100
イミペネム / シラスタチン 1g 1日2回 LD 250, MD 50
キヌプリスチン / ダルフォプリスチン 1バッグおきに25 mg/L *  
トリメトプリム / スルファメトキサゾール 経口にて 960 mg 1日2回

LD:初回投与量(mg),維持投与量(mg)
残存腎機能がある患者(尿量>100mL/日)では経験的に25%投与量を増加
*1日2回,500mg静注と併せて投与

原著論文:Li PK, et al. Perit Dial Int. 2010; 30(4): 393-423.

  • ISPDは、CAPDにおいて、腹膜炎に対する抗菌薬の投与は、IP投与の方が、結果的に抗菌薬の局所濃度が非常に高くなるので、静注よりも好ましいということに同意している。
  • 腹腔内に抗菌薬を投与する場合、交換の度に添加する(連続投与)または1日1回のみ添加する(間欠投与)方法がある。
  • 間欠投与の場合、抗菌薬を含む透析液は、抗菌薬を全身循環に適切に吸収させるために、少なくとも6時間は腹腔内に貯留させなければならない。
  • ほとんどの抗菌薬は腹膜炎が発症している間、吸収が著しく促進されるため、その後の新たな透析液を注入するときにも再度添加できる。

ISPDガイドライン 【APDにおける抗菌薬の間欠投与】

薬剤 腹腔内投与法 (IP)
セファゾリン 長時間貯留時に連日 20 mg/kg IP
セフェピム 1日1回 1 g IP
フルコナゾール 24 – 48時間毎に1日1回 200 mg IP
トブラマイシン 長時間貯留時に初回投与量 1.5 mg/kg IP、その後 長時間貯留時に連日 0.5 mg/kg IP
バンコマイシン 長時間貯留時に初回投与量 30 mg/kg IP、その後 3 – 5日毎に反復して長時間貯留時に 15 mg/kg IP (血中トラフ値 15 mg/mL を維持する目的で)

原著論文:Li PK, et al. Perit Dial Int. 2010; 30(4): 393-423.

  • CAPDにおけるアミノグリコシド類とバンコマインンの間欠投与の有効性については多数のエビデンスがあるが、APDについては少ない。データがある場合、または十分な経験から推奨を行える場合に限ってのAPDにおける投与の指針を表に示す。
  • APDでは交換が速いことから、適切な腹腔内濃度に到達するには時間的に短い可能性がある。特にサイクラーを用いている患者の場合、腹膜炎に対して間欠的に投与した第1世代のセファロスポリンの有効性に関するデータは少ない。
  • セファロスポリンを昼間の交換時のみに使用すると夜間の腹腔内濃度はほとんどの微生物に対するMICを下回る。このような条件がバイオフィルムを形成する可能性がある微生物が生存し続けるという事態を招き、その結果その後に腹膜炎が再燃するという懸念が生じる。大規模なランダム化試験を行うまでは、各交換液に第1世代のセファロスポリンを追加する方が、より安全なアプローチになると思われる。
  • ISPDは、たとえ研究結果がわずかであっても、APD患者にバンコマイシンを間欠的に投与しうることに同意する。
  • サイクラーを使用している患者について、一時的にCAPDに変更する必要があるかどうか、あるいはサイクラーの貯留時間を長くする必要があるかどうかは、現時点では不明である。