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PD注目論文

腹膜透析の早期離脱予防に向けて

腹膜透析(PD)の早期離脱予防に向けた対策-私の診方

中山昌明先生(福島県立医科大学 腎臓高血圧内科)


日本の腹膜透析の現況

 本邦の腹膜透析の普及率は透析患者全体のわずか3%程度にとどまり、欧米先進国の中では最も低い状況にあります。しかしながら、患者の絶対数で見ますと、約1万人近くの患者数となり、これは世界の中でも決して少なくはありません。この点を考えますと、わが国のPD治療は海外と比べて未熟どころか、歴史的に症例を数多く経験し、多くの臨床知見が蓄積されていると言えます。

 

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 さて、90年代の被嚢性腹膜硬化症(EPS)の問題を契機に普及率は低下してきたことはよく知られていますが、この間の最大のPDの変化として挙げられるのが、「長期透析」から血液透析に繋げるための「橋渡し治療」への治療の位置づけでした。PDの利点を損なわずに安全性を保つ。このコンセプトは日本透析学会の「腹膜透析ガイドライン2009」にも示されています。現在、PDの治療継続期間は90年代と比べて短くなっています(図1)。しかしながら、長期安定の透析医療を追及する我が国の社会・医療状況を勘案した場合、最近、私は、このPD治療のパラダイムシフトは、残念ながらその後のPD治療の立場を不利にしてPDの可能性を委縮させてしまった可能性は否定できないのではないかと考えています。PDが橋渡し治療であるならば、PDに積極的にこだわる必要はなくなります。これが安易に流れた場合、PD治療の早期離脱を問題視することはなくなり、引いては離脱防止対策の遅れの原因となり、PDの利点が十分に生かされない悪い意味での橋渡し治療に成り下がってしまいます。このような負の連関-悪循環が形成されつつある可能性を私は深く危惧しています。

 


PDの離脱理由~NEXT-PD研究と透析医学会統計調査からの考察

 では、現在の日本において、PDの離脱の現況はどうなっているのでしょうか。NEXT-PD研究 (Neutral solution, Extraneal use and current PD outcome in Japan) は2008年から2012年にかけて行われた調査で、国内55施設1,338例のPD患者の離脱理由・EPS頻度を検討したものです1)。この調査のポイントは、全例がPD導入時から中性透析液のみの症例であることです。生体適合性の高い透析液を使用し、さらに除水効率の向上したイコデキストリン液を使用している患者群における離脱状況と理由はどうなっているのか。90年代の酸性透析液の状況と比較して内容は変わっているのか?

 

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 調査期間中727例がPDから離脱しました(内163例は死亡)。非死亡例の離 理由は、腹膜炎、除水不全が最多でしたがその割合はPD継続期間により大きく違っていることが判りました(図2,3)。すなわち、継続5年目まではPD関連合併症(多くは腹膜炎)、そして透析関連合併症(多くは体液管理不良)が主因であったのに対し、長期例ではEPS予防のための計画離脱が多くなることが示されました。この調査では、PD試行期間が3年未満の例の離脱率は実に60%を超えていたのに対し、3年以上の群では透析期間に関わりなく離脱率は30%台という結果でした。

 

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 すなわち、PD離脱リスクは早期例ほど高く、この時期を超えた例ではほぼ一定ということです。推測の域を出ませんが、この解釈として次のような可能性が考えられます。一つは、PD期間が短い例では、腹膜炎や体液管理不良が発生する危険性が高く、このために離脱リスクが高いという可能性、そして、二つ目は、腹膜炎や体液管理不良エピソードがあれば医療者側が早々とPDに見切りをつけて離脱させているという可能性です。

さて、二大離脱理由の腹膜炎と除水量に関しては、2013年の日本透析医学会統計調査によれば(調査患者4,197例)2)、腹膜炎の発症率は平均0.22回/患者・年であり、腹膜炎を発症しなかった例が3,640例(86.7%)、1回が400例(9.5%)、2回以上が157例(3.7%)でした。今後、PD離脱と腹膜炎(回数)、継続期間との関係を明らかにする必要があると思います。

 

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 一方、総除水量については、予想される通り経年的に尿量が低下する一方、PDによる除水量はミラーイメージで増加する傾向があります。結果的に、4年目までの平均総除水量は継続期間に寄らず一日1200 mLを超えています(図4)。この事実は大変興味深くかつ重要です。と言うのは、何故PD開始時期と4年目までに総除水量に大きな違いがないにもかかわらず、これが主要な離脱理由になっているのか、これを明確に説明できないからです。除水量を超える過度な飲水が関与するのか、それともナトリウム出納が問題なのか。私は後者の影響が極めて大だと考えていますが、これも今後の検討課題です。

 


PD離脱の議論について

 NEXT-PDから見えてきた早期離脱の問題について述べました。早期離脱は、PD治療の意義を大きく損ねる点から、PDの将来に関わる重大な問題と言っても過言ではないと思います。その実態解明と具体的対策はこれからの課題ですが、いずれにしても、PDの患者教育、あるいはPD処方に関して見直しをしなければならない事を示していることは明らかです。

 最後に、離脱に関しての私見を述べます。PDの離脱を考える際に、まず患者さんはPDの利点を享受し満足しているか否かは重要です。離脱の本当の理由が医療者側の問題にかかわる事なのかを考えるべきでしょう。もし、医学的に継続する上での禁忌事項がなく、かつ患者自身がPDの継続を望むのなら、真剣に患者教育と処方内容を見直す必要があります。これに該当する例は、私個人の経験では、少なくない割合で存在すると思っています。PDは医療者のためにあるのではなく、患者のためにあります。これを前提にしなければ社会から切り離された専門バカの議論に終始することになり、社会に貢献する治療を創造することができないと私は思います。


参考文献

  1. Nakayama M, Miyazaki M, Honda K, et al. Encapsulating Peritoneal Sclerosis in the Era of a Multi-Disciplinary Approach Based on Biocompatible Solutions: the NEXT-PD Study. Perit Dial Int. 2014;34(7):766-74.
  2. 図説わが国の慢性透析療法の現況2013年12月31日現在. 日本透析医学会