日本の承認内容に基づき日本国内で使用される製品の情報です。 | 会員登録について バクスター株式会社

血液透析(HD)概要

H12ヘモダイアライザー(AN69) 適応患者情報

1. はじめに

現在、国内では、高性能膜での透析が積極的に行われており、市場では機能分類Ⅳ型、Ⅴ型が約90%を占めている現状です1)。H12ヘモダイアライザー(特定積層型)に用いられている透析膜であるAN69は開発当初は透水性に優れる高性能膜として評価されておりましたが、1990年以降、各社がβ2Mの除去効率を追求したシャープな分画特性を有する膜を開発、発売していく中で、もはや高性能膜とは言えなくなってしまいました。この結果、AN69は現在の効率追求主義の対極に位置するマイルドな溶質除去特性を持つ透析膜と言われるようになりましたが、拡散、濾過という通常のダイアライザーの機能に加え、AN69のもつ吸着特性、親水化剤であるポリビニルピロリドン(PVP)を含まないために生体適合性に優れている等の点が評価されるようになりました。近年、慢性維持透析患者の高齢化が進む中で、低栄養状態、PAD(末梢動脈疾患)、末梢循環障害、透析困難症を有する患者が増えるにつれ、学会等でこれらの合併症改善に対するAN69の効果に関する症例報告が増えています。またフットケアの領域では集学的治療法の1つとして、このAN69を用いたH12ダイアライザーの症例報告が散見されるようになりました。
AN69の生体適合性と吸着特性という観点から、透析中におきる合併症(短期的)、透析療法を続けることにより起きる合併症(長期的)に対してAN69の可能性に関して紹介いたします。

 


2.透析中におきる短期的合併症である透析困難症(透析低血圧)に対して

 

  • 生体適合性
  • プラズマリフィリング

 

1983年にHenderson らが、インターロイキン仮説というのを提唱いたしました2)。生体から見れば異物である透析膜や透析液に血液が接触することにより、補体が活性化され、その結果、炎症性サイトカインが産生され、透析低血圧を引き起こしているという仮説です。体が透析されていることに気付かない血管内皮細胞に近い透析膜が理想ですが、多くの透析施設で使用されているポリスルフォン膜(PS)は素材自体が疎水性であるために、親水化処理のためにPVPが含まれています。この異物であるPVPが保存期間中に架橋が弱くなり、透析中に漏出することが報告されています3)。AN69膜はスルホン酸基の水和反応により水分子が膜の中に引き寄せられるため、PVPを用いることなくハイドロゲル状で非常に高い親水性を有しています(図1)。最近ではⅢ型のダイアライザーからAN69膜に変更し、血圧低下に関する処置回数が有意に低下し、同時にサイトカインの低下も認められました4)。またAN69膜の陰性荷電は同じく陰性に荷電しているアルブミンを反発するためにほとんど除去されません。これにより膠質浸透圧が維持されプラズマリフィリングが速やかに起きるために透析低血圧がおきにくいということも報告されております5)

 

図1:PVPを含まないハイドロゲル構造

fig


3.透析療法を続けることにより起きる長期的合併症である低栄養状態の患者に対して

 

  • 栄養成分(アルブミン、アミノ酸)の温存
  • 慢性炎症の抑制によるアルブミン合成

 

1999年にStenvinkel らは透析患者に特有の栄養障害(Malnutrition)、炎症(Inflammation)、動脈硬化(Atherosclerosis)が密接に関連して病態を悪化させているというMIA症候群という臨床概念を提唱しました6)。この病態では炎症性サイトカインが中心的な役割を果たしているとされています。Furutaらは28名の高齢透析患者(平均年齢78.2歳)を対象に、アルブミンが抜けないタイプのPS膜(アルブミン篩係数0.002)からAN69膜に変更後、有意に上昇したアルブミン値は、再度PS膜に戻すとAN69変更前の値まで低下したと報告しました7)。同時にサイトカインのIL-6を測定し、AN69ではPS膜と比較して有意に高い減少率が認められたため、慢性炎症を抑制した結果、アルブミンの合成が促された可能性が示されています。またアルブミンの合成に必要なアミノ酸も一回の透析で6~8gくらい抜けてしまうと言われていますが8)、AN69膜を用いた透析では比較的、温存されることが報告されております9)。AN69は栄養素を温存しながら、ターゲットである炎症性物質を効率よく除去する特異的吸着が特長です(図2)。

 

図2:イオン結合により陽性に荷電しているターゲット物質(活性化補体、炎症性サイトカイン)を効率よく除去して、栄養素(アルブミン、アミノ酸)を温存する

fig


4.透析療法を続けることにより起きる長期的合併症であるPAD、末梢循環の悪化に対して

 

  • 血球成分への影響(白血球、血小板の凝集)
  • 動脈硬化の進展に関連する物質の吸着

 

1999年にイタリアのSirolliらは透析開始直後に透析膜に接触した血液において、白血球と血小板からなる凝集体が形成され、膜素材によって異なる反応があるということを報告しました10)。この検討ではAN69を用いた透析療法は、血小板の活性化に伴い表面に発現するPセレクチン陽性細胞数がPS膜と比較して低値を示し、白血球、血小板の凝集が起きにくいということが示されました。佐藤らの検討では、AN69を用いた透析療法はPS膜と比較し、透析開始直後の経皮酸素分圧(TcPO2)の変化が軽微であり、末梢循環の改善が報告されており、このような血球成分の凝集が起きにくいではという考察をしております11)
またAN69を長期使用することにより、動脈硬化進展に関連しているMonocyte Chemoattractant Protein-1(MCP-1)の濃度が有意に減少したという報告があります12)。MCP-1は高い等電点(PI 9.8)から強い陽性荷電を有しており、陰性荷電を持つAN69に特異的に吸着、除去された可能性が示されています。AN69を用いた透析療法を長期継続したことにより、透析前の皮膚還流圧(SPP)が上昇し、下肢切断のリスクがあった重症下肢虚血(CLI)の例において、PAD(末梢動脈疾患)の重症度が改善したという報告もあります13)

 


5.まとめ

近年、ダイアライザーに使用されている透析膜には、膜構造、親水性、疎水性、荷電など個々の特性があります。AN69はその膜特性から、親水性と陰性荷電を有し、生体適合性と吸着能力に優れた透析膜です。
昨今、維持透析患者の高齢化が進み、透析療法に伴う合併症が懸念される中、AN69の生体適合性、および吸着特性、栄養物質の温存という特長が、今後、透析医療の発展に寄与することが期待されます。

 


文 献

  1. 日本透析医学会統計調査委員会:図説 わが国の慢性透析医療の現況 2008年12月現在
  2. Henderson LW, Koch KM, Dinarello CA, et al:Hemodialysis Hypotension: The Interleukin Hypothesis. Blood Purif. 1983;1:3-8.
  3. K Namekawa, A Kaneko, K Sakai, et al: Longer storage of dialyzers increases elution of poly(N-vinyl-2-pyrrolidone) from polysulfone-group dialysis membranes.J Artif Organs,2011;14:52-57.
  4. 三谷裕司,佐藤宏幸,石幡和彦,他:高齢者とAN69.腎と透析別冊(東京医学社)2014;p180-184
  5. 田中光、桜沢貴俊、中村啓章 他:積層型ダイアライザーAN69膜における溶質除去性能と末梢循環評価の検討.腎と透析別冊(東京医学社)2011:p111-115
  6. Stenvinkel P, Heimburger O, Paultre F,Diczfalusy U: Strong association between malnutrition, inflammation, and atherosclerosis in chronic renal failure. Kidney Int.1999; 55:1899-1911.
  7. Furuta M, Kuragano T, Kida A, et al: A crossover study of the acrylonitrile-co-methallyl sulfonate and polysulfone membranes for elderly hemodialysis patients: the effect on hemodynamic, nutritional, and inflammatory conditions. ASAIO J. 2011;57:293-9.
  8. TA Ikizler, PJ Flakoll, RA Parker,et al: Amino acid and albumin losses during hemodialysis.Kidney Int.1994;46:830-837
  9. 白井浩一, 明石理恵, 堤丈哲, 他:PS膜からAN69膜への変更による栄養状態の検証.腎と透析別冊(東京医学社)2014;p164-67
  10. Sirolli V, Ballone E, Amoroso L, et al:Leukocyte adhesion molecules and leukocyte-platelet interactions during hemodialysis: effects of different synthetic membranes. Int J Artif Organs. 1999;22:536-42.
  11. 佐藤元美、葛谷明彦、堀江勝智、他:血液透析における微小循環動態へのAN69XS膜の影響. 腎と透析別冊(東京医学社) 2009;p189-91.
  12. Morena M, Jaussent I, Chalabi L, et al:Biocompatibility of heparin-grafted hemodialysis membranes: impact on monocyte chemoattractant protein-1 circulating level and oxidative status. Hemodial Int. 2010;14:403-10.
  13. 西山敏郎、水沼博志、大原真也、他:積層型ダイアライザAN69膜による下肢血流改善効果. 腎と透析別冊(東京医学社)2009:p197-200.